甲賀忍法帖生き残り対策マニュアル

「なんじの星が!“凶”と出たからよ!」(地虫十兵衛)


 以下の文章では『バジリスク 〜甲賀忍法帖〜』(原作・山田風太郎 漫画・せがわまさき/講談社)を「漫画版」、 『甲賀忍法帖』(山田風太郎/講談社文庫)を「原作版」と表記しております。 『甲賀忍法帖・改』(原作・山田風太郎 漫画・浅田寅ヲ/角川書店)に関しましては、一切触れておりません。

 区切り線以下の文章では原作版未読の方にとってはネタバレをしておりますのでご注意下さい。


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甲賀組十人衆
 甲賀弾正   鵜殿丈助 
 甲賀弦之介  如月左衛門 
 地虫十兵衛  室賀豹馬 
 風待将監   陽炎 
 霞刑部   お胡夷 
 
伊賀組十人衆
 お幻   雨夜陣五郎 
 朧   筑摩小四郎 
 夜叉丸   蓑念鬼 
 小豆蝋斉   蛍火 
 薬師寺天膳  朱絹 


甲賀忍法帖顛末
(注1)漫画版を基準としておりますので原作版とは異なる個所もあります。
(注2)勝負の結果は勝敗ではなく生死を基準としております(○△=生存、●▲=死亡)。
(注3)十人衆同士以外の勝負は省略しております。

1△風待将監 対 夜叉丸△ / 駿府城 (第一殺「十対十」)1日目(慶長十九年四月某日)

2▲甲賀弾正 対 お幻▲ / 駿府城外 安倍川のほとり (第一殺「十対十」)

3△鵜殿丈助 対 小豆蝋斉△ / 鵜殿丈助 ← 朧の破幻の瞳 / 甲賀伊賀国境 土岐峠 (第二殺「九対九」)2日目

4○地虫十兵衛 対 薬師寺天膳● / 東海道 (第三殺「九対九(その二)」)

5●風待将監 対 小豆蝋斉・筑摩小四郎・蓑念鬼・蛍火○ / 東海道 (第四殺「九対九(その三)」)

6●地虫十兵衛 対 薬師寺天膳○ / 東海道 (第四殺「九対九(その三)」)

−雨夜陣五郎 ← 朧の破幻の瞳 / 伊賀鍔隠れ谷 お幻屋敷 (第六殺「七対九(その二)」)

7△鵜殿丈助 対 朱絹△ / 伊賀鍔隠れ谷 お幻屋敷(離れ間の外) (第六殺「七対九(その二)」)

8●鵜殿丈助 対 雨夜陣五郎○ / 伊賀鍔隠れ谷 お幻屋敷(裏手の滝) (第六殺「七対九(その二)」)

9△お胡夷 対 蓑念鬼△ / 甲賀伊賀国境 (第八殺「六対九(その二)」)3日目

10○霞刑部・如月左衛門【薬師寺天膳の声色】 対 夜叉丸● / 東海道 関宿のはずれ (第九殺「六対九(その三)」)

11○お胡夷 対 小豆蝋斉● / 伊賀鍔隠れ谷 お幻屋敷(塩倉) (第十殺「六対八」)

12△如月左衛門【夜叉丸】 対 蛍火△ / 伊賀鍔隠れ谷 お幻屋敷(表) (第十殺「六対八」)

13△お胡夷 対 雨夜陣五郎△ / 伊賀鍔隠れ谷 お幻屋敷(塩倉) (第十一殺「六対七」)

14●お胡夷 対 簑念鬼○ / 伊賀鍔隠れ谷 お幻屋敷(塩倉) (第十一殺「六対七」)

−如月左衛門【夜叉丸】 ← 朧の破幻の瞳 / 伊賀鍔隠れ谷 お幻屋敷(塩倉) (第十一殺「六対七」)

15△甲賀弦之介 対 筑摩小四郎(→失明)△ / 筑摩小四郎 ← 朧の破幻の瞳 / 伊賀鍔隠れ谷 お幻屋敷(表) (第十三殺「五対七」(その二)」)

−朧(―七夜盲の秘薬→失明) / 伊賀鍔隠れ谷 お幻屋敷 (第十三殺「五対七(その二)」)

− 甲賀弦之介 対 陽炎  / 甲賀弦之介(―蛍火―七夜盲の秘薬→失明) / 東海道 関宿 旅籠 (第十五殺「五対七」(その四)」)4日目

16○室賀豹馬 対 蓑念鬼● / 東海道 関宿 旅籠 (第十五殺「五対七」(その四)」)

17○如月左衛門【簑念鬼】 対 蛍火● 東海道 鈴鹿 (第十七殺「五対六(その二)」)

18○霞刑部 対 薬師寺天膳● / 東海道 桑名宿〜宮 七里の渡し(船上) (第十九殺「五対五(その二)」)5日目

19○霞刑部 対 雨夜陣五郎● / 東海道 桑名宿〜宮 七里の渡し(船上) (第十九殺「五対五(その二)」)

20●霞刑部 対 朱絹・薬師寺天膳○ / 東海道 桑名宿〜宮 七里の渡し(船上) (第二十殺「五対五(その三)」)

21○室賀豹馬 対 薬師寺天膳● / 如月左衛門【甲賀弦之介】 / 東海道 池鯉鮒の東 駒場付近 (第二十二殺「四対四」)6日目

22●室賀豹馬 対 筑摩小四郎○ /東海道 池鯉鮒の東 駒場付近 (第二十三殺「四対四(その二)」)

23○陽炎・如月左衛門【朱絹の声色(容姿は薬師寺天膳)】 対 筑摩小四郎● / 東海道 池鯉鮒の東 駒場付近 (第二十四殺「三対四」)

24○陽炎・如月左衛門【薬師寺天膳】 対 朱絹● / 東海道 吉田宿 夕暮橋 (第二十八殺「三対三(その四)」)7日目

25●如月左衛門【薬師寺天膳】 対 薬師寺天膳○ / 東海道 吉田宿 夕暮橋 (第二十九殺「三対二」)

26○陽炎 対 薬師寺天膳● / 東海道 浜松宿 旅籠 (第三十殺「二対二」)8日目

27●陽炎 対 薬師寺天膳○ / 東海道 掛川宿 某旅籠一室 〜 東海道 藤枝宿 某旅籠裏山 無住の荒寺 (第三十殺「二対二」〜第三十二殺「二対二(その三)」)9日目・10日目

28○甲賀弦之介 対 薬師寺天膳● / 東海道 藤枝宿 某旅籠裏山 無住の荒寺 (第三十二殺「二対二(その三)」)

− 甲賀弦之介 対 陽炎 / 陽炎 ← 朧(→開眼)の破幻の瞳 / 東海道 藤枝宿 某旅籠裏山 無住の荒寺 (第三十二殺「二対二(その三)」)

− 薬師寺天膳 ← 朧の破幻の瞳 / 東海道 藤枝宿 某旅籠裏山 無住の荒寺 (第三十三殺「一対二」)

29▲甲賀弦之介(→開眼) 対 朧▲ / 駿府城西方安倍川ほとり (最終殺「一対一」)11日目(慶長十九年五月七日)


甲賀忍法帖使用武器一覧
(注)変形中の如月左衛門をはじめ、敵味方問わず他人の武器を使用している場合がありますが、省略しております。

甲賀弾正  懐剣 毒針
甲賀弦之介 忍者刀
地虫十兵衛 槍の穂
風待将監  忍者刀 「1(対夜叉丸)」
霞刑部  
鵜殿丈助  苦無
如月左衛門 忍者刀 苦無
室賀豹馬  
陽炎  仕込杖 懐剣 苦無
お胡夷  小太刀 苦無
 
お幻  (鷹)
 
夜叉丸  山刀 黒縄
小豆蝋斉  山刀
薬師寺天膳 忍者刀 毒吹針
雨夜陣五郎 懐剣
筑摩小四郎 鎌×2「22(対室賀豹馬)」
蓑念鬼  棒 「14(対お胡夷)」 → 二節棍
蛍火  (毒ヘビ) 「12(対如月左衛門)」 → 「(対甲賀弦之介)」 苦無 + 小太刀
朱絹  忍者刀 懐剣


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 人は成功よりも失敗から、勝利よりも敗北から多くのことが学べるといいます。 と、いうことは『甲賀忍法帖』から人は多くのことが学べるということです。  長い人生、いつか貴方の名前が人別帖に記されてしまう日が来るかもしれません。 彼等の敗北から、学んでおこうではありませんか。

 まず、総論を書いてしまいますが、十人衆が撃破されている時は、その人物が単独行動をとっていた時が圧倒的に多いのです。
 多対一の状況に陥った場合、基本的には単独行動者側はその場を切り抜けるどころか、一人も道連れに出来ずに撃破されています。 また、相手も忍者である以上、奥の手を有していることが多いわけで、一見かなり有利な状況に見えても、相手の能力を知らない者と一対一の状況になるのも危険です。 相手が盲目だったり四肢がなかったり手足の動きを封じていたりしても、その盲目の瞳で瞳術を使ったり口から槍の穂を吐いたり髪の毛を自在に動かしたりすることがあるのです。 ちなみに、作中では基本的には十人衆同士が多対多の状況で勝負をすることはありません。
 以上のことから考えますと、作中における勝者の理想は「霞刑部&如月左衛門のコンビ」(「10」〜「15」)だといえるでしょう。 どちらも単純攻撃以外に応用が利く上に敵に知られても尚有効だった能力の持ち主であることに加えて、性格が剛の者と柔の者と正反対で、 更に基本的には霞刑部は隠形した上で二人で行動しているところがポイントです。「10(対夜叉丸)」が、その有効さが窺えるわかりやすい例でしょう。

 それでは、ここからは、どうして単独行動をとってしまったのか、を中心に敗北の各論を見ていくことにしましょう。

パターンA:別の任務中だった
5風待将監
6地虫十兵衛
10夜叉丸
11小豆蝋斉
14お胡夷
 単独行動をとっていることが本人の所為ではなかった上に、任務を果たすことができなかったという救われないパターンです。 ここでいう「任務」とは人別帖を届けたり、仲間の様子を見に行ったり、捕らえた敵から情報を聞き出そうとしたりと、 忍法勝負による相手方の撃破を目的としていないものです。 小豆蝋斉は微妙なのですが、人別帖を預かってきていることと尋問の内容から考えれば薬師寺天膳の命令で動いていることは確実で、 しかも前後の他の伊賀組の台詞から考えるとこの時点では撃破するつもりはなかったようなのでここに入れました。 個人的には、小豆蝋斉の撃破に関しては、捕らえた相手の肩に触れただけの小豆蝋斉本人よりも、 尋問は多対一で行うという鉄則をすっかり忘れて小豆蝋斉単独による尋問を命じた薬師時天膳の所為であるように思えます。
 地虫十兵衛、お胡夷は今回の忍法勝負自体を死ぬまで知らなかったわけですが、 この二人の方が基本的に戦闘回避、止むを得ない場合だけ一撃必殺と任務遂行を優先しつつも一人撃破(薬師寺天膳を撃破しても無意味だったのですが)しており、 逆に忍法勝負を知っていると任務遂行よりも相手の撃破に走りがちになってしまった挙句一人も撃破出来ずに返り討ちにあってしまうところが、甲賀伊賀の宿怨の深さを思わせます。 特に風待将監は、単独で伊賀組の動きを封じることができた時点で、 自分は人別帖を届けておらず甲賀組は今回の忍法勝負についてまだ知らないはずであるにも関わらず、 伊賀組は既に知っていることを考慮して、戦線離脱して任務遂行を優先させるべきでした。 そうすれば地虫十兵衛も生還できたでしょうし、その後の戦況が大きく変わったはずです。 逆に伊賀組はこの時点で忍法勝負のことを知る甲賀組を全滅させた上にせっかく東海道まで出てきていたのですから、誰かが単独行動中の夜叉丸を回収するべきだったように思えます。 結局、伊賀組の安易な甲賀卍谷襲撃と夜叉丸によって、忍法勝負は甲賀組に露見してしまったのですから。

パターンB:功を焦った
4薬師寺天膳(対地虫十兵衛)
8鵜殿丈助
16簑念鬼
20霞刑部
21薬師寺天膳(対室賀豹馬)
25如月左衛門
27陽炎
 「功を焦った」結果、「相手の未知の能力に返り討ちにあう」という忍法勝負の基本パターンです。 「功を焦った」の中には作戦自体に問題があった場合や自分の能力を過信していた場合も含め、「相手の未知の能力に返り討ちにあう」の中には伊賀組の切り札「復活した薬師寺天膳に驚愕している隙に撃破」も含めております。 尚、撃破された薬師寺天膳の取り扱いですが、 「復活した薬師寺天膳に驚愕している隙に撃破」は伊賀組の切り札であり、 実際に薬師寺天膳は復活した後再び登場する際に趣向を凝らしているのですが、 いずれの撃破時においてもそこまで考えた上で行動していたとは思えなかったので、撃破されたケースを全て挙げております。
 このパターンのモデルケースは霞刑部で「一対多」「復活した薬師寺天膳に驚愕」「(左記とは別に)相手の未知の能力に返り討ちにあう」という見事なまでに完全に撃破されております。
 微妙なケースでは薬師寺天膳(対地虫十兵衛)は小豆蝋斉の場合と似ているのですが、 情報を得ようが得まいがこの場で撃破するつもりであった点、 確実に多対一で撃破できる好機を活かさなかったばかりか尋問は多対一で行うという鉄則も守らなかった点、 その辺りの命令を薬師寺天膳本人が下していた点を考慮してこちらに入れました。
 鵜殿丈助も微妙で、単独行動自体は「功を焦った」わけではなく、戦闘開始寸前まで忍法勝負自体を知らなかったのですが、 その時点まで鵜殿丈助の方が圧倒的に有利であったことを考慮して自分の能力の過信&相手の未知の能力に返り討ちと考えてここに入れることにしました。 余談ですが、水に沈まない肉体=窒息死しないという鵜殿丈助が窒息死により撃破されるというのは、漫画版絶品のアレンジだと思います。
 ちなみに最も「復活した薬師寺天膳に驚愕」したのは陽炎で、地虫十兵衛、霞刑部、如月左衛門の3人と異なり「間違えなく撃破したはずの薬師寺天膳が何故か生きている」と知ってから撃破している (一応霞刑部と如月左衛門も夜叉丸の台詞を聞いていますが、あれだけで薬師寺天膳の想像を絶する能力に気がつけというのは酷な話だと思います)にも関わらず、 その3人は薬師寺天膳に対して一応反撃を試みたのに、陽炎は悲鳴をあげることしかできませんでした。 尚、陽炎は実際は「対甲賀弦之介(2回目)」まで瀕死ながら生きているのですが、甲賀弦之介や朧がとどめをさしたわけではないので、 「伊賀責め」まで含めた「対薬師寺天膳」で実質的には撃破されていると考えました。

パターンC:変形した如月左衛門による騙し討ちだった
17蛍火
23筑摩小四郎
24朱絹
 「隠形した霞刑部による暗殺」に並ぶ甲賀組の切り札です。 いずれも計算ずくの撃破であるところは忍者として高く評価できます。 逆に、味方に化けることができる敵がいると事前にわかっていたにも関わらず、合言葉等の識別方法を考えておかなかったのは伊賀組の大失策です。 しかも、如月左衛門は声はともかく顔は生死問わず捕まえた相手にしか化けられないので、盲目であったため朱絹の声色と陽炎との併せ技で騙された筑摩小四郎はともかく、 蓑念鬼と薬師寺天膳が功を焦って撃破されなければ蛍火と朱絹は騙されずに済んだはずです。 特に薬師寺天膳は、自分は復活しているわけで、いい迷惑です。
 尚、如月左衛門&霞刑部のコンビに撃破された夜叉丸は如月左衛門に騙されたこと自体が致命傷になったわけではないので一応ここからは外していますが、 夜叉丸&蛍火、筑摩小四郎&朱絹という朧を抜かした伊賀組の顔も性格も「いい人」は軒並み如月左衛門の罠に散ったことになります。 彼等は忍者にしてはまだ若く素直すぎたのかもしれません。

パターンD:色香に惑わされた
18薬師寺天膳(対霞刑部)
26薬師寺天膳(対陽炎)
 筑摩小四郎はこちらに入れてもいいような気もするのですが、色香に惑わされなくても撃破されていたはずですので外しました。 また、お胡夷三連戦については、小豆蝋斉は色香に惑わされずに尋問を行っていましたし、雨夜陣五郎と蓑念鬼は山の処女に思いっきり惑わされていますが、生き残ります。 それから、陽炎が主君筋である甲賀弦之介を2回ばかり襲っていますが、これも一応撃破とは無関係です。
 と、いうことで色香に惑わされてこその山田風太郎忍法帖だと思っていたのですが、実は撃破されていたのは薬師寺天膳只一人でした。 「18(対霞刑部)」の場合(霞刑部の色香に惑わされているわけではありませんので、念のため)、盲目状態の朧は完全な戦力外なので一応一対一の状況と考えていいと思うのですが、 そんなことよりも味方の主君筋である朧であろうが敵である陽炎であろうがお構いなしという節操のなさは見事です。
 薬師寺天膳は朧と陽炎にかなり御執心のようで、その後も懲りずに「28(対甲賀弦之介)」の直前に陽炎に「伊賀責め」の妙を味わわせつつ、朧を襲おうとしていますが、 これも一応撃破とは無関係です。

パターンE:敵を恋うた
2甲賀弾正
2お幻
29朧
29甲賀弦之介
 「2(甲賀弾正対お幻)」や「29(甲賀弦之介対朧)」が各々一対一の状況であったこと自体とは直接関係がないのですが、 「2」や最終戦があのような結末を迎えたのには大いに関係があるのでこのような括りにいたしました。 わざわざ書く必要もないとは思いますが、序盤で撃破される甲賀弾正&お幻はともかく、 甲賀弦之介&朧の想いは不沈艦(或いは浮沈艦)・薬師寺天膳の最終的な敗因をはじめとしてストーリー全体に絡んでいます。
 要するに甲賀ロミオと伊賀ジュリエットです。

パターンF−1:戦場との相性が悪すぎた
19雨夜陣五郎
 パターンFは上記5パターンの中にはどうしても含めることのできなかった例外です。
 雨夜陣五郎はこの駄文を書くまで気がつきませんでしたがよく考えるとかなり面白い奴で、 甲賀弦之介暗殺(朧により阻止)、「8(対鵜殿丈助)」、「13(対お胡夷)」と功を焦ったり色香に惑わされたりして 単独行動の取り放題、油断のし放題、隙の見せ放題でいつ撃破されていてもおかしくない状況 (異論もあるでしょうが、個人的には甲賀弦之介暗殺の時に朧が阻止していなければ瞳術で返り討ちにあっていたと思っています)の時には生き残ってしまうのに、 相手の能力を知っており、油断もなく、基本的には多対一の多勢側という状況の時に、あっさりと撃破されてしまうのです。
 確かに敵は甲賀組の切り札の一つ「隠形した霞刑部」でしたし、襲われた瞬間は一対一という状況でした。 しかし、すぐに朱絹が駆けつけており、普通なら多勢側であったおかげで命拾いしたという展開になるように思えました。 実際、霞刑部が行ったことは雨夜陣五郎を海に向かって投げ飛ばしただけです。 ただそれだけのことで、特殊体質が災いして雨夜陣五郎は撃破されてしまいました。

パターンF−2:勝負中に多対一の状況を放棄した
22室賀豹馬
 勝負に入る前に多対一を放棄した人物は「4(地虫十兵衛対薬師寺天膳)」の薬師寺天膳等もいるのですが、 勝負に入った後でわざわざ多対一の状況を放棄したのは室賀豹馬だけです。 そして、両者の決定的な違いは勝負に入る前か後かという点よりも、敵を甘く見て油断したのかむしろその逆かという点であり、そこから考えて前者はパターンBに、後者はここに入れることにしました。
 つまり室賀豹馬は、甲賀弦之介と陽炎を逃がすために自らの危険を顧みずに多対一の状況を放棄したわけであり、 盲目状態でありながらそこまで甲賀組三人を追い詰めた筑摩小四郎(&鷹)を誉めるべきなのでしょう。 しかし、今まで見てきたように、盲目状態の朧を完全な戦力外として数に入れなければ、多対一の状況下で多勢側が一人でも撃破されたことは厳密にはありません。 前述したように「19(霞刑部対雨夜陣五郎)」の雨夜陣五郎だけはかなり微妙なのですが、少なくともこの時の戦場は甲賀弦之介、陽炎、室賀豹馬にとってあそこほど不利な戦場ではありませんでした。 よって今までのパターンから考えれば、三人で粘っていればそのうち如月左衛門が駆けつけて、単純に戦うか、実際に撃破したように朱絹の声色等で隙を作るのかして四人とも生き残れていたのではないかと思います。
 余談ですが、実際には何も起こりませんでしたが、変形中の如月左衛門を一人で放置したのも彼にとって結構危険な状態だったような気がします。

パターンF−3:弱かった
28薬師寺天膳(対甲賀弦之介)
 盲目状態の朧は完全な戦力外なので一応一対一の状況と考えていいと思うのですが、 自分から相手を誘い出しておいて、相手の忍法を知っていて、しかもそれが使用できないのを知っていて、しかも相手が盲目状態なのを知っていて、 一応自分の忍法が相手に知られていないという状況で真っ向勝負で完敗しています。 事実上の最終決戦がこんな幕切れです。
 敗因は真っ向勝負が薬師寺天膳に向いていなかったとしか言い様がありません。 伊賀組の切り札はあくまでも「復活した薬師寺天膳に驚愕している隙に撃破」であり「薬師寺天膳本人」ではないのです。 そして、今回の勝負でも立札にわざわざ自分の名前など書かなければ、切り札を有効に使うことができたはずなのです。 それでは何故薬師寺天膳が朧の前で甲賀弦之介に真っ向勝負を挑んでしまったのかというと、それは「色香に惑わされた」とも「功を焦った」ともいえないこともないのですが、 忍法の使えない相手に撃破されたのは薬師寺天膳だけなのでここに入れることにしました。 それにしても、手段を選んで甲賀弦之介を撃破しようとした薬師寺天膳と手段を選ばずに朧を撃破しようとした陽炎、果たしてどちらが立派なのでしょうか。


蛇足
 さて、ここまで『甲賀忍法帖』の登場人物達の敗北を見てきたことで色々学べたことと思います。 つまり、生き残る為には、功を焦らず、野心を抱かず、宿怨に縛られず、自分の能力を過信せず、 色香に惑わされず、恋に悩まされず、特殊な弱点を生むような特殊な体質にならず、 そして多勢で無勢を確実に叩いていけばいいのです。
 ただし、そんな登場人物は忍者としては正しいのかもしれないが、ひどくつまらない人間で、 そんな登場人物ばかりの物語はひどくつまらない物語であり、『甲賀忍法帖』としては正しくないと思いますが。


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