2004年


『星月夜の夢がたり』(光原百合/文藝春秋)
ノミネート全140作
 大人の絵本と言えばいいのか大人の童話と言えばいいのか、光原百合の文章を縦糸に、鯰江光二の絵を横糸にして「星夜の章」「月夜の章」「夢夜の章」の3章に編まれた32篇の物語。
 初めて童話や絵本に接した子供のようで恐縮ですが、この本を読んだ感想を素直に書くと、「すごい、すごいよこの本、きらきらしていてとっても綺麗なのっ」という感じです。
 オススメはとてもひとつだけには絞れないし、かといって際限なく選んでいくと全作品になりかねないので、各章からからひとつずつということで、 「カエルに変身した体験、及びそれに基づいた対策」「無言のメッセージ」「遥か彼方、星の生まれるところ」を挙げておきます。
 ちなみに、2004年の作家は13作で山田風太郎です。


参考資料甲斐高風のBOOK LIST(光原百合)
参考資料甲斐高風のBOOK LIST(山田風太郎)


TVドラマ『白い巨塔』(フジテレビ)
役者品川徹
TVドラマ・特別賞『新選組!』(NHK)
ノミネート全48作
 『白い巨塔』は山崎豊子原作、1978〜1979年、1990年に映像化されている作品のリメイクで、フジテレビ開局45周年記念ドラマとして全21回+特別版が放映されました。 浪速大学病院を舞台に第一外科助教授・財前五郎(40、唐沢寿明)と第一内科助教授・里見脩二(40、江口洋介)という異なる信念を持つ同期の医師を軸に話が進んでいきます。
 個人的には小説や漫画のドラマ化、かつてドラマ化された作品のリメイクが増加している傾向は好きではありませんし、 そうやって作られた作品にはストーリーが予めわかってしまう、 原作・前作から展開を変更しなかった為に時代と合わずに不自然な部分が生じてしまう、 原作・前作から展開を変更してしまった為に前作より見劣りする部分が生じてしまう、 といった明らかな弱点もあります。 この弱点は今回の『白い巨塔』においてもかなり露骨に存在していたように思います。
 にも関わらず、最初から最後まで目が離せない作品に仕上がっていたのは、基本的には登場人物が実に真剣に生きていたからであり、 その登場人物を演じていた役者達がそれを実に真剣に演じていたからなのではないかと思います。 特に財前五郎を演じた唐沢寿明の「隙のある野心家・自信家にして実は理想家・苦労人」という感じは絶品でした。
 しかし、今回の作品から役者を一人だけ挙げるとすれば、今まで私が全く存じ上げなかった病理学科教授・大河内清作を演じた品川徹を挙げたいと思います。 その声といい雰囲気といい、見事なまでの「毅然とした誇り高い医学博士」っぷりに痺れました。 私が知らないだけでまだまだ格好いい老人を演じられる役者が日本にはいるのですね。
 TVドラマも冬の時代、なんて言われていますが、こんな重厚なドラマがちゃんと視聴率を取れ、こんな役者がいるのなら、きっとまだまだ面白いTVドラマが生まれてくる、そんな期待を抱かせてくれるドラマでした。
↓『新選組!』第1回放映時点での感想なので後で書き直します。多分。
 『新選組!』は三谷幸喜脚本・香取慎吾主演(近藤勇役)による大河ドラマ。 自慢じゃありませんが、新選組のことはほとんど知りません。 知らないだけならまだいいのですが、今までに色々な方々の色々な創作物によってかなり間違った知識(例:「沖田総司は女だった」←オイ)を得てしまっているのです。 なので、冒頭のシーンを観ていても勘定方・河合耆三郎とか言われてもさっぱりわからないなぁ、顔と名前が一致させられるように覚え書きでも作ろうかなぁとか思っていたのですが、 10年前に戻って正式に物語が始まったら、これがドラマとして出来がよく、かつわかりやすかったんですよね。
 第1話を見た限りでは、これからの前半は、 新選組のメンバーが集まってくる様子を各人に見せ場を与えることでは定評のある三谷幸喜が大河ドラマにしてはかなり短期間であることを活かして丁寧に、そして資料が後半に比べれば残っていないことを活かして自由に描くことで 大勢の登場人物の一人一人に命を吹き込んでいき、 そして、登場人物の一人一人に命が吹き込まれ、愛着がわいた後、 後半では変わりつつある時代の中、変われないまま、「滅びの美学」すら貫けずに滅んでいく新選組をきっと鮮烈に描いてくれるのだろうという期待が持てました。 そう考えると、最期まで闘い続けた土方歳三(個人的には一番好きです)や闘病による悲劇のヒロイン(違)・沖田総司といったかっこよく描かれがちな面子ではなく、近藤勇が主役なのも当然といえます。
 と、いうわけでとりあえず殺陣以外は大満足でした。 今後の唯一にして最大の不安は、三谷幸喜ファンとしてはどうしても最後までこのレベルで脚本が完成する気がしないことです。
 余談ですが、近年大河ドラマがトレンディドラマ(死語)化していると言われ続けていますが、実は大河ドラマが(地上波で)放映されている時間帯は他局が中高年向けの番組構成にシフトしているので、 視聴率を考える場合、NHKの戦略はあながち的外れとは言えません。 そんなの大河ドラマじゃない、と言われれば確かにその通りだと思いますが、 その戦略の中で成立するドラマとして「三谷幸喜による青春群像劇」を選択したというのは、なかなか面白い発想だと思います。 ただ、幕末を舞台にした時代劇は視聴率が伸びないらしいのですが。ダメじゃん。


参考資料大河ドラマ『新選組!』覚書


TVアニメ『GUNSLINGER GIRL』(フジテレビ)
ノミネート全61作
 相田裕原作(メディアワークス)。元々は同人漫画だったそうですが。 元気に生きられなかった少女を義体に改造して条件付けして従順な妹や仕事道具や娘や部下として暗殺に使う社会福祉公社作戦二課の物語。 記憶傷害、味覚破壊、「条件付けと愛情は似てるの」(トリエラ)といった副作用だらけの彼女達の日々ですが、 まぁ、そこから+αが生まれているのだと信じたいです。 ちなみにオススメのコンビは無難にトリエラ&ヒルシャーです。


邦画『AIKI』(2002年)
ノミネート全8作
 加藤晴彦、ともさかりえ主演作品。 事故で下半身不随になり車椅子生活を送るようになった加藤晴彦演じる元・ボクサーの青年が合気柔術と出会う、という物語。
 「相手を受け入れる」という合気柔術の極意の秘訣が「自分から動く」ことであり、 それによって合気柔術も人生も一皮むける、という展開がベタだけど納得させられました。 ともさかりえ演じるギャンブラー巫女も好印象でした。
 ちなみに「車椅子の合気柔術家」は海外に実在するそうで、この作品のエンディングでその映像が出ていました。


洋画『スパイダーマン(Spider−Man)』(2002年:アメリカ)
ノミネート全9作
 サム・ライミ監督、トビー・マグワイア主演作品。 特殊能力を身につけるまで、その特殊能力によって傲慢になってそれを諭されるまで、「ヒーロー」になるまで、宿敵の生まれるまで、終盤での二者択一に答えるまで、 とずっとベタベタな展開で話が進んでいるのに、いや、ずっとベタベタな展開で話が進んでいるからこそ、ラストはそこにいくしかないのだけれど、 でも本当にそこにいってしまうことにちょっと切なくなりました。そう、生まれながらの超人でもなければ闇の住人にもなりきれるわけでもない「スパイディ」の活躍は、いつもちょっと切ないのです。
 ちなみに、アメリカンコミックのヒーローとして有名な「スパイダーマン」ですが、実は本格的な映画化は本作品が初めてなのだそうです。


アニメーション映画『Mr.インクレディブル (THE INCREDIBLES)』(2004年:アメリカ)
ノミネート全5作
 


家庭用ゲーム『DRAGON QUEST VIII 空と海と大地と呪われし姫君』(スクウェア・エニックス/プレイステーション2)
ノミネート全15作
 御存知、日本を代表するRPGシリーズの最新作にして初のフル3D作品。
 「見わたす限りの世界がある。」という惹句に偽りはなく、空と海と大地を堪能しながら寄り道して道に迷い、 何度も地図とにらめっこしながら首を傾げてうろうろし、モンスターに襲われてへとへとになり、 やっと見つけた宝箱が既に空になっていて「ここさっき通ったじゃん!」とショックを受ける、といった毎日でした。 でもそれはそれで楽しかったです。やたらと時間はかかりましたが。
 また、戦闘も「めいれいさせろ」を極力使わないようにして敵も味方も何をしてくるのかとドキドキしながら眺めるのが楽しかったです。 ゼシカのぱふぱふ→ヤンガスのステテコダンスというある意味物凄い連続技をこらえるおおめだまには敵ながら同情しました。倒しましたけど。
 キャラクターでは、やはり自他共に認める「ぼんっ!きゅっ!ぼーん!」なゼシカ・アルバートが印象的でした。 胸の大きさにコンプレックスを持っているキャラクターというのはよく見かけますが、 胸の大きさにプライドを持っている女性キャラクターというのは案外珍しかったのではないでしょうか。 「ゼシカの普段着」「おどりこの服」「バニースーツ+うさみみバンド+うさぎのしっぽ」「まほうのビキニ」「あぶないビスチェ」「しんぴのビスチェ」でのコスチュームチェンジしながら 魔物が見とれるくらいのおいろけを辺りにただよわせ、 「バッチリがんばれ」でも投げキッス、ぱふぱふ、ヒップアタック、セクシービーム、ピンクタイフーン、ハッスルダンスといった「おいろけ」特技を活かした戦闘は見ていて飽きませんでしたが、 300万本以上売れた作品として本当にそれでいいのか、とちょっとだけ思ったみたりもしました。
 寄り道が楽しかった分本筋のシナリオは一本道過ぎた感もありますが、最初から最後まで理不尽な思いもせず、飽きもせずに普通に進められたゲームは結構久しぶりのような気がしました。


業務用ゲーム『鉄拳5』(ナムコ)
ノミネート全5作
 御存知、3D対戦格闘ゲームのシリーズ最新作。
 正直な話、感心させられたシステムがあったわけでも感動したバトルがあったわけでもなく、消去法で選出しただけなので特に書くことがなかったりします(オイ)。 実生活の状況とアーケード業界の状況を考えると、この部門の存続を検討する時期に来ているようです。


キャラクターヴィクトリカ・ド・ブロワ(GOSICK 桜庭一樹/富士見書房)
 「ライトノベル」にして「ミステリー」、しかも「リニューアル後のテーマは“LOVE”」 というはっきり言ってかなりムチャな富士見ミステリー文庫の要求に武田日向のイラストや作者・桜庭一樹のあとがきも含め一丸となって真っ向から応える正統派、それがGOSICKシリーズです。
 まずミステリーとしては「登場人物表や引用文による惹句がある」 「警察は無能」 「刑事の身内にして天才肌の探偵役」 「舞台は1924年のヨーロッパの小国・ソヴュール王国だが、主人公である極東の島国から留学生・久城一弥(15)がワトソン役を務める(視点は基本的には彼の一人称で固定)ことで舞台の導入・説明を容易にしている」 「(ライトノベルですが舞台が異世界ではないので)物理法則がまともなのはもちろん、トリックや伏線まで含めてもぶっ飛んだところはない」といったところが挙げられます。 要するに古式ゆかしい体裁の上でまともなミステリーを構築しているわけです。 逆にまとも過ぎてミステリーに慣れ親しんでいるとサプライズに欠ける気もします。
 しかし、ライトノベルとしてはちょっとしたサプライズがあります。それがヒロインのヴィクトリカ・ド・ブロワです。 前述した「刑事の身内にして天才肌の探偵役」というのが彼女のことです(ちなみに兄がグレヴィール・ド・ブロワ警部です)。 彼女の「ゴスロリ(ちなみに身長140cm程度)な金髪碧眼美少女(14)」という容姿は、ライトノベルのヒロインとしてはまともなのですが、 彼女にはまともでないことがふたつばかりあります。 ひとつは、彼女の声が「老人のような、しわがれて低い声」であることです。 まぁそれは今回置いておきます。 もうひとつは、彼女が「常に白い陶器のパイプをくわえて吸っている」ことです。 ライトノベルでも常に煙草をくわえている女性は時々見かけますが ライトノベルはおろかミステリーでも現実でも常にパイプをくわえている女性、というのを浅学ながら私は知りません。 しかし、タバコではなく白い陶器のパイプというところが、彼女のゴスロリなイメージを崩すどころか強化してくれ、 更に偉大な名探偵の先輩シャーロック・ホームズのイメージを付与してくれます(余談ですが、「最後の挨拶」が1914年、わずか10年前の事件だったりします)。 そう、男女構わずいい男・いい女というのは「唇に何かくわえた状態」が様になるらしいですが、彼女はパイプをくわえた姿が実に様になっているのです。
 そして読者は、そんな魅力的な彼女の「聖マルグリッド学園生でありながらいつも授業に出ずに大図書館最上階の植物園で複数の本を放射線状に並べて高速で読んでいる」 「見てもいないのに久城一弥のその日の行動をピタリと当てる(正にシャーロック・ホームズ!)」 「湧き出る“知恵の泉”が混沌の欠片を再構成してそれを言語化する(要するに事件の真相を看破して説明する)」といった天才ぶりから 「外出する機会が少ないので世間知らず」 「小動物のようにもぐもぐとお菓子を食べる」 「リスのようにほっぺたをふくらませてすねる」 「びたーんと転んで顔を小さな両手で押さえて痛がる」という少女ぶりまでその言動にいちいち惑わされ、 サプライズに欠けると前述したミステリーの真相から目を逸らされてしまうのです(オイオイ)。
 もちろん、ヴィクトリカ単体だけでライトノベルとしての魅力が尽きてしまうわけではなく、 「中途半端な秀才」で<春くる死神>でワトソン役な主人公・久城一弥(ちなみに一弥なのに三男だったりします)が 探偵役で「囚われの姫」であるヴィクトリカと「ボーイ・ミーツ・ガール」することでボーイがナイトに成長していく様子を描いたまともなライトノベルになっています。
 とにかく次回が楽しみな作品です。まずはイギリスからの留学生にして偉大な冒険家の孫娘、アブリル・ブラッドリーが真価を発揮する作品をお願いいたします。
 最後に余談ですが、桜庭一樹は一部で美少女作家と言われているらしいです。私はあとがきを読むまで女性であることすら気づきませんでしたが。
 尚、一応2004年の男性キャラクターも一人挙げておくと、渋川流合気柔術の“達人”渋川剛気(『グラップラー刃牙』『バキ』 板垣恵介/秋田書店)になります。 初読の時点ではその魅力に気づかず流してしまっていたのですが、最近御馴染みの単行本サイズのリミックス本で再読した際、一気にファンになってしまいました。


参考資料甲斐高風のBOOK LIST(桜庭一樹)


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