その時唐突に、携帯電話が鳴った。
自分のではない、自分の正面にいる人物のものだ。
彼女が妙に驚いた顔をしているのが気になったが、とりあえず私のことは気にしないで電話に出たら、と手で合図する。
そして彼女は、戸惑いながら電話に出た。
携帯電話が鳴った時、そのメロディが自分のものではないにも関わらず、一瞬だけ自分への電話ではないかと期待してしまった。
そんな自分が、おかしかった。
そう、自分には電話は来ない。
少なくとも彼からの電話は来ない。
今日だけは、来るはずがない。
今日は12月24日、クリスマス・イヴだ。
そしてクリスマス・イヴは、特別な人と過ごすものだ。
恋人とでも、家族とでも、友人とでもいい。
ただ、どうでもいい人と気まぐれで過ごしたりする日ではない。
少なくとも、自分にとって、クリスマス・イヴとはそういう日だった。
だから、今日は彼と二人っきりで過ごしたかった。
しかし、何度も何度も彼を誘おうとしたものの、どうしても上手く誘うことが出来ないまま、今日に至ってしまった。
逆に彼から誘ってくれるのではないかという淡い期待、甘い期待も抱いたが、残念ながらそれも今日までない。
今日突然お誘いがかかる、なんて神様の気まぐれ、彼の気まぐれを信じたいのは山々だが、クリスマス・イヴは特別な人と過ごすものである。
恋人とでも、家族とでも、友人とでもいい。
ただ、どうでもいい人と気まぐれで過ごしたりする日ではない。
既に、彼は自分ではない誰か特定の女性を特別な人として選んでしまったのかもしれない。
そこまでいかなくても男女問わず多くの友人がいる――例えば、今、目の前で電話をしている恭子さんもその一人だ――彼のことだ。
今日の予定が未定だなんて考えられない。
とっくに予定は決まっているはずだ。
そう、今夜がクリスマス・イヴだからこそ、奇跡は絶対に起こらないのだ。
何度も到達した結論に改めて到達して、改めて大きく溜め息をついた。
気晴らしにと町へ出てみたが、町はどこもかしこもクリスマス・イヴに浮かれている。
これ以上町をうろついてもかえって気が滅入るだけだろう。
もう帰ろう。
再び大きく溜め息をついた。
ようやく電話を切る。
会話の長さと内容が正比例しない今の電話のお相手は、もちろんユキちゃんだった。
用件は、要するに今日のクリスマスパーティーへのお誘いだった。
あれだけ何回も今日はバイトだから行けないと言ったはずなのに。
さて、すっかりほったらかしにしてしまっていたことりちゃんの方に向き直ると、彼女がまた大きく溜め息をついていた。
向こうが何も言わないので、こちらも何も言わないことにしているが、溜め息の原因ははっきりしている。
愛と正義のヒロインとしてはどうにかしたいところではあるのだが、流石に麻雀勝負でどうにかできる問題ではない。
どうしたものやら。
その時唐突に、携帯電話が鳴った。
自分のではない、自分の正面にいる人物のものだ。
彼女が妙に驚いた顔をしているのが気になったが、とりあえず私のことは気にしないで電話に出たら、と手で合図する。
そして彼女は、戸惑いながら電話に出た。
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