誰が為に雪は降る
しんしんと雪が降る。
ドラマでは、雨は哀しい気分の時に降っていることが多いが、雪はロマンティックな気分の時に降っていることが多い。
確かに、雪の降り積もる世界は不思議な雰囲気を持っており、そこはもうちょっとした「異世界」である。
それは、一面に降り積もった雪が光を反射して世界を白銀に染めるという見栄えや、寒さで張り詰めた空気だけが原因ではない。
一番の原因は、音である。
雪は、結晶と結晶との間にたくさんの隙間があってふわふわしているという構造上、その隙間に音を吸収する。
特に、柔らかく降り積もった雪は音を反響させずに吸収するので、その結果、音本来の澄んだ音色が聞こえるようになる。
それだけではなく、雪が降ることで交通量も減り、残った人や車も普段より慎重な行動を取るので、その結果、雑音が減る。
そして、雪は雨と異なり、降る時に余計な音を立てないことも忘れてはならない。
更に、雪は前述した構造上、音だけではなく、大気中のゴミや、臭いまでも吸収する。
余分な音もゴミも臭いも吸収しながら降り積もる雪は、実は「異世界」へ誘うどころか、少しだけ、ほんの少しだけ、世界を本来の姿に戻そうとしているのだ。
つまり、この世界を掃除しているのである。
しんしんと雪が降る。
そんなことを考えながら雪を眺めていると、少しだけ、ほんの少しだけ、自分の心も掃除してもらったような気分になる。
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