甲斐高風のGAME REVIEW

『Tomak −Save the earth− LOVE STORY』(SEED9、サンソフト/プレイステーション2)


「愛ある限り戦いましょう!命、燃え尽きるまで!!」(『美少女仮面ポワトリン』(石ノ森章太郎)美少女仮面ポワトリンの台詞より)


まえがき
 2002年6月、なんと、GAME REVIEWの依頼をいただいた。 当サイトを運営して2年間でわずか2本しかGAME REVIEWを書いていないというのに、身に余る光栄である。
 しかし、そのゲームが『Tomak −Save the earth− LOVE STORY』であると聞いてしばし思い悩む。 このゲームは、レビューをするには最高の素材であり、既に今までに何人もの一流の料理人によっておいしく調理されている。 今更私の入る隙などあるのだろうか。
 色々と考えた結果、どうやら隙はふたつ存在した。
 ひとつは、このゲームのレビューは圧倒的に無料体験版によるものが多いのである。 製品版の、しかも2002年3月22日に発売されたWindows版ではなく2002年12月19日に発売されたプレイステーション2版のレビューには意味があるかもしれない。
 もうひとつ、このゲームのレビューは圧倒的に画像とひとつのキーワードに頼っているものが多いのである。 一流の料理人が皆実行しているだけあってそのアプローチは魅力的であり、それを超えることは難しいだろうが、どんな素材でも調理法がひとつということはない。 別の方面からのアプローチには意味があるかもしれない。
 こうして半年も遅れてしまったもののどうにか依頼に応えることのできた「空から落ちてきた究極の純愛シュミレーション」のレビュー、少しでも楽しんでいただければ幸いである。

GAME REVIEW
 ゲームには「恋愛シミュレーション」というジャンルがある。
 では、「恋愛」をシュミレーションする、とはどういうことだろう。 それは、「自分が相手のことを好きになる」「自分の好きな相手に自分のことを好きになってもらう」という2点に集約されるのではないだろうか(両想いが複数できてしまった場合の取捨選択に関しては今回は触れないものとする)。
 また、「恋愛シュミレーション」とは早い話がギャルゲーであり、ギャルゲーの最大の売りとはキャラクターに他ならない。よって、キャラクターの魅力を描くことが重要なのである。
 だから、「恋愛シュミレーション」の、いや、「恋愛アドベンチャー」も含めたギャルゲーの主眼は「自分が相手を好きになる」ことよりも「自分の好きな相手に自分を好きになってもらう」ことにあるのである。 より正確には、主眼は「プレイヤーの好きな相手に主人公を好きになってもらう」ことにあるのである。 「主人公が相手のことを好きになる」ことも本来は色々と描きようがあるはずなのだが、例えばそのキャラクターを描いた原画家や演じた声優といった要素によって、ゲームが始まる前に既に「プレイヤーが相手のことを好きになる」ことが済んでいた場合、 「主人公が相手のことを好きになる」ことをどう描こうがプレイヤーにとってはどうでもよくなってしまうからである。
 よって、大半のギャルゲーで最終的に重要なのは「プレイヤーの好きな相手に主人公のことを好きになってもらう」ことが成功したかを示す、相手キャラクターの主人公に対する「好感度」なのである。

 そして、『Tomak −Save the earth− LOVE STORY』は「恋愛シュミレーション」を超えた「純愛シュミレーション」なのである。
 「恋愛」と「純愛」は何が違うのだろう。 「純愛」とは文字通り「純粋な恋愛」という意味である。では、「自分が相手のことを好きになる」「自分の好きな相手に自分のことを好きになってもらう」の2点のうち、「恋愛」を更に純粋にするために不要なのはどちらなのであろうか。 相手からの見返りに左右されない「恋愛」こそ、より「純粋な恋愛」であると考えられるので、後者の「自分の好きな相手に自分のことを好きになってもらう」の方が不要であると思われる。
 それを踏まえて、今回のゲームを見てみると、最終的に重要なのはヒロインの主人公に対する「愛情度」である点は何ひとつ他のギャルゲーと変わるところはない。
 問題なのは、このゲーム、主人公のことを「お兄ちゃん」と呼ぶ女性、合コンで知り合った彼女、プレイステーション2版に移植する際に追加されたキャラクター、気風のいい男友達のような女性、10年ぶりに再会した幼馴染と、 他のギャルゲーにも登場しそうな女性陣が次々と登場することはするのだが、本当に登場するだけであり、ヒロインと呼べる女性はたった一人なのである。 しかも、その唯一のヒロインが容姿端麗で性格も心優しい「愛の女神」であるにも関わらず、ありとあらゆるプレイヤーにとってまず間違いなく第一印象が最悪なヒロインなのである。 ありとあらゆるプレイヤーにとって第一印象が最高なヒロインなど事実上存在しない。だからこそ千差万別な「萌え」「属性」が存在する。 同様に、ありとあらゆるプレイヤーにとって第一印象が最悪なヒロインなど事実上存在しない、はずであったのに、見事なまでにそれを実現してしまったのである。 しかも、このゲーム、難度が高く、プレイ期間の36ヶ月のうち1日でも無駄にするようなプレイをしていてはハッピーエンドにはとても到達できないのである。 つまり、プレイヤーがこのヒロインを好きになれなければ、ハッピーエンドには到達できないようになっているのである。
 「プレイヤーの好きな相手に主人公のことを好きになってもらう」ことでも、「主人公がヒロインのことを好きになる」ことでもなく、「プレイヤーがヒロインのことを好きになる」ことをゲーム化したもの、それが、『Tomak −Save the earth− LOVE STORY』というゲームなのである。

あとがき
 このまま幕を下ろせればよかったのだが、へっぽこ料理人の私ですら見過ごせないいくつかのことを無視したまま幕を下ろすわけにはいかない。
 人間なら実生活上において好きでもない人間と付き合い、不本意な選択肢を選ばなくてははならないことが、ある。 そこから恋愛が生まれることだって、あるだろう。 ゲームにおいてすらCG回収等のために好きでもないキャラクターを攻略し、不本意な選択肢を選ばなくてはならないことが、ある。 そこから好きなキャラクターが、ストーリーが見つかる事だって、あるだろう。 しかし、「ありとあらゆるプレイヤーにとって第一印象が最悪なヒロイン」一本勝負のゲームを、わざわざ買うということが、あるのだろうか?
 また、あまり知られていない事実だが、実はこのゲーム、ヒロイン以外の女性と結ばれるハッピーエンドがちゃんと存在するのである。 ただし、この事実は「プレイヤーがヒロインのことを好きになる」ことができなければハッピーエンドには到達できないようになっていることを否定するものではない。
 ちなみに、このゲームには『Tomak −Save The Earth,again−』という続編が存在する。そのジャンルが横スクロール型シューティングゲームである理由は、私には想像もつかない。
 最後に、今までこのゲームのことを知らなかった者が今回のレビューを読んで、このゲームに興味を持ったのであれば、 購入する前に私が今回のレビューであえて封印したキーワードである「生首ギャルゲー」という単語を検索エンジンにかけるべきであることを忠告しておく。 どんな素材でも調理法がひとつということはないが、一流の料理人たちが皆同じ調理法を実行しているのには、それだけの意味があるのだから。


「彼女は一人ではなにもできないから、俺が色々としてあげなくちゃいけない」(主人公)


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おまけ
 私がファーストプレイで学んだことを以下に記しておきます。ネタバレになりますが、レビューの補足や今後ゲームをプレイする人がいた場合の一助としていただければ幸いです。 誰ですか、私のセカンドプレイとかわけのわからないことを言う人は?


・ マニュアルによると、ハッピーエンドの条件は愛の女神エビアンの「愛情度」90%以上だそうです。 ゲーム開始時の「愛情度」は17.4%なので、プレイ期間36ヶ月の間に72.6%上昇させなければなりません。 つまり1ヶ月に約2%です。そして、ファーストプレイでは1ヶ月に3%は上昇させられることが確認できました。 つまり、理論的にはハッピーエンドに到達するのは簡単だということになります。

・ しかし、愛の女神エビアンは例えるなら植物のような女性なので、温度管理・湿度管理が上手くいかないとどんな手段をとっても「愛情度」は下がる一方です。 体感温度20〜30度、湿度40〜70%を絶対維持しなくてはならないのですが、 そのために取れる手段が愛の女神エビアンの置き場所の移動(机の上、窓際、地下倉庫、ガーデン)と彼女の髪型と髪の色の変更だけなので梅雨とかに対処しようがありません。 クーラー、いや、せめて扇風機くらいないのでしょうか。

・ 単純な話、お金をかけた行動の方が効果的です。食事は「ハンバーガー」「ジュース」、気分転換は「お絵描き」が効果的です。 お金は主人公が「出勤」することで稼げます。「出勤」すると、愛の女神エビアンのほとんどのパラメータは悪化しますが、「ストレス」が下がるというメリットもあります。お互い一緒にいるのは辛いのでしょうか。

・ PS2版では、いくつかのコマンドが追加・変更されています。舞台が韓国から日本に変更しているため「ジャージャーめん」→「カップめん」、「炒め餅」→「カレーライス」は納得いくのですが、 「虫湯」→「珍料理」、「つねる」→「くすぐる」、「殴る」→「しかる」はこのゲームらしさを損なっていると思います。

・ イベントは、1年目9月カフェ(北条愛美)→10月映画館(北条愛美)→12月映画館(エビアン)→2年目2月公園(北条愛美)→3年目6月公園(エビアン)→11月カフェ(桜井いずみ)→12月公園(桜井いずみ)→2月公園(桜井いずみ)です。 要するにマニュアルに書いてある通りです。 あとは2年目8月に北条愛美と、3年目9月に李春香と海に遊びに行ってそれぞれの水着姿を見れたことくらいしかいい思い出がありません。 ちなみに舞台が韓国から日本に変更しているため、北条愛美=イ・ソヨン、桜井いずみ=キム・チヒョンのことです。ついでに李春香=PS2版追加キャラクター、織原綾乃=チャン・ウンジュ、麻生桂一=カン・ソンフン、杉野昭治=パク・ソンテです。

・ 今更主人公の言動についてツッコミを入れるのもどうかと思うのですが、桜井いずみからもらったマフラーを帰宅後そのまま愛の女神エビアンに巻いてあげる点だけはどうしても納得できません。 しかもそのマフラーはあったかすぎて体感温度+15度も補正されるので真冬でも適温より高くなってしまい役に立ちません。ひょっとしてこれは桜井いずみのささやかな復讐なのでしょうか。

・ エンディングは「愛情度」67%くらいで肥満エンド(人類滅亡)でした。同じデータを流用して酒乱エンド(人類滅亡)も確認しました。 肥満は「ハンバーガー」「ジュース」にさんざんお世話になったので納得いきますが、酒乱は「お酒」を1回しか呑ませてないのに心外です。

・ 最後にあえて基本的な説明を。愛の女神エビアンは、人類を滅亡させようとする天界に対して、人類にはまだ真の愛情が残っていることを証明するため、その美しい肉体を捨てても愛してくれる人間を求めて花の種となって、地上に向かいます。 そして、主人公が家の前で拾った種を育てていたら3ヵ月後に見事な彼女が咲いたわけです。だから、よく誤解されているように主人公は最初から彼女を拾ったわけではありません。もっとも、私なら彼女が咲いた時点で捨てているでしょうが(人類滅亡)。

・ でも、外気が気持ちいいからと愛の女神エビアンをお庭に出したまま「出勤」した時、近所の子供達に見つかってしまいどうすることもできずにわたわたと慌てる彼女の姿は妙に可愛かったです。

・ 余談ですが、アンケート葉書で応募した「エビアンの目覚まし時計(声:榎本温子)【非売品】」の当選者30名の中に私が含まれていました。


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