2000年


『どちらかが彼女を殺した』(東野圭吾/講談社文庫)
ノミネート全97作
 正式開催5年目にして、ようやく小説が受賞しました。と、いうわけで2000年の作家は圧倒的な強さ(再読含めて36作)で東野圭吾です。そのくせ肝心の第52回日本推理作家協会賞長編部門受賞作にして映画(1999年)にもなった『秘密』(文藝春秋)は未読だったりしますが。
 東野圭吾の凄さは、
1.毎年毎年コンスタントに作品を発表している
2.しかも、実に多様なジャンルの作品に挑んでいる
3.洗練された文章によりリアリティを与えることで、多様な各作品にすんなりと引き込ませてくれる
 という点にあります。
 1については下に参考資料を挙げておきます。
 2については、とりあえずマイベスト5のジャンルを挙げておきましょう。
 まず、『どちらかが彼女を殺した』はフーダニット(犯人当て)です。この小説では殺人事件が起こり、容疑者が二人出てきますが、最後まで読んでみても真犯人がどちらなのか、証拠は全て提示されるもの結論は明示されません。 読者が自分で考えなくてはならないという、究極の「読者への挑戦状」なのです(幸い、文庫版の解説で教えてもらえますが)。 更に、この作品にはもうひとつの軸があります。被害者の兄(警察官!)が第一発見者なのですが、彼は自らの手による復讐を考え、あえて偽装工作を強化することで警察の介入を退けようとします。 つまりこの作品は、一種の倒叙ミステリ(犯人視点により犯行時から描くミステリ)でもあるのです。このため、真犯人がわからなくても充分面白いのです。
 以下、『天空の蜂』は原子力発電所が舞台のクライムサスペンス、『パラレルワールド・ラブストーリー』はSF+恋愛小説、『同級生』は本格学園推理、『白夜行』は(世代交代はないですが)大河小説、といった具合です。 なにせ『秘密』に感動して他の東野圭吾作品も読んでみようとすると「超たぬき理論」(『怪笑小説』)なんてのに出会ってしまうわけですから、特定層のファンがつきにくいのです。
 しかし私は、単なるパズルを書いて小説と言い張る誰かや、どの作品を読んだかわからなくなってしまうような似たり寄ったりの小説しか書かない(書けない?)誰かより、ありとあらゆる角度から小説の可能性に、自分の可能性に挑戦している東野圭吾の方が大好きです。
 3については、実際に体験してもらうしかないでしょう。


参考資料東野圭吾作品年表


TVドラマ『天気予報の恋人』(フジテレビ)
役者津川雅彦(『合い言葉は勇気』 フジテレビ)
ノミネート全36作
 相変わらず『ビューティフルライフ』(TBS、北川悦吏子脚本・美容師の木村拓哉&車椅子の常盤貴子主演・B'z主題歌)や『やまとなでしこ』(フジテレビ、スチュワーデスの松嶋奈々子&数学者→魚屋の堤真一主演・Misia主題歌)はそっちのけで 今回の受賞作は映画『スペーストラベラーズ』(2000年)で株を下げたり『君の手がささやいている』(テレビ朝日)で株を上げたりしている岡田惠和脚本作品です。主題歌は「SEASONS」(浜崎あゆみ)です。
 要は佐藤浩市と稲森いずみと深津絵里の三角関係が軸になっているのですが、何故か私はメインヒロインを稲森いずみではなく深津絵里だと誤解しつづけていたので、
「今は佐藤浩市と稲森いずみの仲がどんどん進展しているけど、ラストでは深津絵里が大逆転するんだー」
 と信じきって観ていたため、「佐藤浩市と稲森いずみのハッピーエンド」という衝撃のラストでした(笑)。
 稲森いずみは内面に自信がない役、深津絵里は外見に自信がない役だったのですが、私は外見に自信がない方に感情移入していたということなのでしょうか。単なる深津絵里ファンなのでしょうか。
 尚、常連・三谷幸喜脚本作品『合い言葉は勇気』(役所広司&香取慎吾&鈴木京香主演、エルガー「威風堂々」主題歌)からは、ぞくぞくするほど温和な悪役弁護士・網干頼母を素敵に演じた津川雅彦が2000年の役者に選出されました。


TVアニメ『カードキャプターさくら』(NHK教育テレビ)
ノミネート全28作
 とにかく、丁寧な作品で好感が持てました。
 ここでいう「丁寧」とは、高レベルな水準を保ち続けたスタッフの画力・演出や声優陣の演技のことだけをさすものではありません。
 「受け手の期待と予想に(上手く)応えるという作家の使命」を各エピソードにおいてもシリーズ全体においても主人公・木之本桜という「小学4→5年生の少女」を中心に置いてそれを成し遂げ、その上で周囲に遊び(幼なじみとか兄妹とか教師と生徒とかとか)を散らばらせるというサービス精神を発揮していることこそ、真に「丁寧」と評価されるべき点です。
 とかく最近は、むやみやたらに不必要な伏線をはったり、最後に今までの伏線を無視することで安易に「予想を裏切る意外なラスト」を創り出し、受け手の期待を裏切っている作品が増えている気がします。 期待を裏切っておきながら予想を裏切ったことで自分が非凡であると錯覚している作家というのははっきりいって見苦しいだけです。


邦画『おもちゃ』(1998年)
ノミネート全4作
 とにかく、主演の宮本真希も昭和30年代初頭の京都の花街もただただきれいでした。


洋画『ミザリー(MISERY)』(1990年:アメリカ)
ノミネート全35作
 私としては、存在するかどうかも分からない上に意思の疎通が図れなくても仕方がない異形の怪物や宇宙からの侵略者や未来からやってきたロボットとか、 存在はするものの遭遇するかはわからない核戦争の危機や隕石衝突よりも、 確実に存在し、確実に遭遇し、しかも意思の疎通が図れないことにどうしても納得がいかない「わがままなおばちゃん」の方がはるかに恐怖なのです (原作はスティーブン・キングが実体験を元に書いたという作品!)。
 その「わがままなおばちゃん」を怪演したキャシー・ベイツは第63回アカデミー主演女優賞を受賞しました。


アニメーション映画『トイ・ストーリー2(TOY STORY2)』(2000年:アメリカ)
ノミネート全6作
 「2の法則」に忠実に、前作に比べて制作費と舞台は拡大し、その分感動は拡散してしまった作品でした。 それでも、もう一人のバズ・ライトイヤーを登場させることで本家バズ・ライトイヤーの成長を見せるところなんぞはよく思いつくものだと感心しますし、「おかしな二人」のバディ・ムービーとしてよくできていることも確かです。 前作ともどもテーマが「落ち目になった時」であるところも唸らされます。
 そして何より、映画館で私の横にいたカップルが見終わった後、「おもちゃを大切にしなくちゃって思った」って話していたのだからこれはもう大成功でしょう。
 断じてどこかの某在米評論家の日本人先生がおっしゃるような「アメリカによる日本蔑視の作品」なんて単純な作品じゃありませんよ。


家庭用ゲーム『Little Master2 雷光の騎士』(徳間書店インターメディア/ゲームボーイ)
家庭用ゲーム・特別賞『FINAL FANTASY IX』(スクウェア/プレイステーション)
ノミネート全29作
 PS2が発売されたこの2000年にこの部門を制したのは1992年にゲームボーイで発売されたこの作品でした。正直なところ私は過去の名作の移植をありがたがる近年の傾向は作る側も遊ぶ側も敗北宣言を出しているみたいで好きではないのだが、実際今遊んでも面白いんだよなぁ。
 基本的なシステムは『ファイアーエムブレム』風シミュレーションRPG+『女神転生』風仲間作りです。これを徹底的に可愛く、遊びやすく、それでいてアイデアが豊富で単純ではない作品に仕上げています。
 とにかく夢中で楽しみました。
 それにしてもヒロイン1号ことライム・ライナーク姫は毎回敵方にさらわれるし、ヒロイン2号こと僧侶タムタム・タンバリンは魔物やぬいぐるみに変身するし、しかもぬいぐるみは勇者なんかよりはるかに強い最強ユニットだし、それでなくてもドラゴンよりヒマワリが強かったりする世界だし、(この作品には登場しませんけど)ヒロイン3号&4号ことシャルル&リルル・ブレッドは二重人格だし・・・いいなぁ(笑)。
 特別賞には毎回毎回成功しようが失敗しようが、常に「新しさ」をウリにしていたFFシリーズが「懐かしさ」で勝負してきたこの作品が受賞しました。


参考資料:Little Masterシリーズ(制作・ZENER WORKS、発売・徳間書店インターメディア)
1991.04.19.『Little Master ライクバーンの伝説』(ゲームボーイ)
1992.03.27.『Little Master2 雷光の騎士』(ゲームボーイ)
1995.06.30.『Little Master 虹色の魔石』(スーパーファミリーコンピュータ)

参考資料“ボクと『ボクと魔王』”


業務用ゲーム『MARVEL V.S. CAPCOM 2 New Age of Heroes』(カプコン)
ノミネート全21作
 ここ最近の格闘ゲームの傾向の一つに、単なる1対1の格闘からの脱却というものがあります。複数のメンバーでチームを組み、しかも単なるチーム対抗勝ち抜き戦に終わるのではなく、その仲間達が(一時的とはいえ)同時に画面内に登場して戦うというシステムです。 例えばメインキャラがコンビ技を放つ時のみ登場するもの(『DEAD OR ALIVE2』)や現在戦っているキャラクターの気力を消費して決まった技を放つという「超必殺技」扱いのもの(『燃えろ!ジャスティス学園』)や登場回数制限の有るサブキャラが決まった技を放つもの(『KING OF FIGHTERS'99』)などがありますが、本受賞作品のシステムは珠玉です。
 1チームは3人で構成され、対抗勝ち抜き戦ではなくチーム対チームで1試合行われます。基本的には1対1の格闘で、途中で仲間といつでも交代できるというルールなのですが、現在戦っていない仲間を好きな時に助っ人として呼び出して技を放たせることができます。この技自体は決められてますが、状況に応じて放つ技が異なる上に、その使い分けを予め3パターンの中から選択できます。 また、助っ人を呼ぶリスクとしては登場回数や気力ゲージ(超必殺技やカウンターの場合は消費しますけど)ではなく、その助っ人に相手が攻撃できる、ということです。つまりリスクは助っ人の体力であり、この助っ人は試合中いつでも交代できるメインキャラなんですから、うかつに呼ぶと逆に手痛い反撃を食らってしまうわけです(もちろん体力が尽きるとそのメインキャラはその試合からリタイアです)。
 このシステムによりこのゲームは従来の格闘ゲームとは比べ物にならないくらい戦術の可能性が広がりました。
(実際には戦術の可能性が広がった分、えげつない戦法がとられることが多かったのですけどね)


キャラクター神麻嗣子(神麻嗣子の超能力事件簿 西澤保彦/講談社)

 この部門の傾向としては、今まで受賞した女性は6人とも黒髪の恋する乙女で、そのうち5人は長髪で、4人は和装で、3人は料理が得意です。趣味がバレバレですね。
 そして、今年受賞した神麻嗣子は今挙げた特徴を唯一人全て備えています。
 「ドジで、間抜けで、超可愛い、神麻嗣子の見事なまでの迷推理!」という看板文句に偽りはなく、彼女は超能力者問題秘密対策委員会(チョーモンイン)の出張相談員として日夜家事全般や恋愛問題と戦っているのです。 ちなみに、肝心の「超能力の不正使用による犯罪」には迷推理では戦えないので、何の因果か売れないミステリ作家・保科匡緒が名推理で戦わされています。
 尚、正式開催以後の受賞者は全て女性ですが、この部門は別に女性限定というわけではありません。そこで、一応2000年の男性も一人挙げておきましょう。
 唐沢寿明演じる竜崎ゴウ(『ラブコンプレックス』 フジテレビ)です。
 破天荒な言動、女性をとっかえひっかえする生活、要領のよさ、強力無比な後ろ楯、そのいずれもただただ痛快であると共に、私がかけらも持ち合わせていないものなので、うらやましくて仕方がなかったです。


参考資料西澤保彦作品年表


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