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袁術出陣（１９２年前半）
「孫呉推進小委員会」のメインである「孫策が暗殺されなかったら」がかなり長文になって見通しが立たないので、孫堅編はぎゅっと圧縮した叙述にしようと思います。
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当時、天下は長安に献帝を擁する董卓政権と、反董卓連合の盟主であった袁紹の勢力、そして連合内部で反袁紹グループの核となっていた袁術の勢力に三分されていました。袁紹と袁術はそれぞれ、各地の太守や刺史、州牧を勝手に任命したり、長安に奏上して官位を取り次いだりしていました。その中で、孫堅は袁術によって豫州刺史に任じられました。反董卓連合には漢朝の正式な刺史である孔伷が参加していましたから、おそらく孔伷がこのころ死んだのでしょう。袁紹も別の人物を豫州刺史に任じています。
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ということで、仮に孫堅が劉表攻撃で死ななかったとすると、戦況自体は孫堅に有利に展開していたようなので、劉表は州都・襄陽を追われて江陵あたりへ落ち延びることになるでしょう（もともとの州都は南陽で、袁術が蟠居していたために襄陽を治所とした。同様の例はのちの揚州刺史・劉繇にもみられ、彼は寿春が袁術に占拠されていたため、曲阿を州都とした）。
袁術は史実上、孫堅が死んだ２年後（１９３年）に中原制覇に乗り出し、曹操に敗れて淮南に逃れます（匡亭の戦い）。このとき、長安政権に荊州牧（刺史と異なり、軍権を持つ）に任じられていた劉表は、袁術が出陣して空き巣同然の南陽郡を占拠し、袁術の補給を断っています（その割に袁術は普通に戦いますが）。しかし、孫堅が劉表を駆逐している場合、袁術の出陣はもっと早くなるかもしれません。
より詳細に見ていくと、袁術の出陣の大義名分は、長安政権（李・郭の二頭体制）が任じた兗州牧を着任させる、というものでした。もともとの兗州牧で反董卓連合参加諸侯の劉岱は１９２年、青州黄巾と戦って戦死しており、曹操が兗州牧を「僭称」していました。曹操の兗州牧就任はいわゆる「袁紹人事」とは少し趣が異なり、地元の実力者と連携しながら東郡太守（劉岱に殺された喬瑁から「継承」）を経てのし上がったもので、青州黄巾と和睦し（有名な「青州兵」です）、軍事力も身につけています。
兗州牧着任は袁術の出兵にとって口実でしかなく、状況が許せば他の口実で兵を起こすでしょう。
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曹操はこの時点ではまだ青州兵を吸収していないばかりか、背後で青州黄巾が暴れている状況となります。これは劉表を破って意気上がる孫堅の敵ではなく、曹操も打撃を受けて兵を退くことになるでしょう。
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袁術のもとには董卓から洛陽占拠のために派遣されたものの董卓に反旗を翻した朱儁将軍もおり、彼も洛陽復興に賛同します。しかし、袁術は内政とか富国とかいった概念が理解できてないのではないかと疑われるほど、収奪と浪費の暴君なので、廃墟となった洛陽には関心を示しません。もっとも、河南尹（洛陽周辺の郡に相当する行政単位）については、以前自分が河南尹の職（この場合、同地域の太守にあたる官職。行政単位と職名が同じ）に就いたこともあり、占領を進めます。
周囲の状況としては、曹操が史実どおり青州兵を吸収して兗州牧を自称。一方、長安では董卓が王允・呂布に暗殺されるものの、すぐに李・郭ら董卓残党が長安を再占拠。王允は自ら命を絶ち、呂布は張遼・高順ら并州組を引き連れて落ち延びます。
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袁紹は呂布を役目を終えたとばかりに殺そうとしますが、失敗。呂布は張楊のもとに身を寄せます。同じ年、公孫瓚が陶謙と組んで袁紹を攻めて敗れています（界橋の戦い）。このあたり、史実とほとんど展開が変わりません。
明けて１９３年。史実では袁術が曹操に匡亭で大敗した年ですが、すでに豫州方面を着々と平定しつつある袁術側は動きません。むしろ、袁紹の指示を受けた曹操が豫州へ侵攻し、豫州刺史・孫堅が迎え撃つ展開になります。
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しかし、ここでトラブルが生じます。そう、曹操の父、曹嵩が陶謙軍の賊将に斬られてしまうのです。曹操は烈火のごとく起こり、徐州に侵攻。略奪と殺戮をほしいままにします。
孫堅はこの間に態勢を立て直し、豫州を平定。息子の孫策を総大将として陶謙救援の兵を送りますが、徐州の戦局はほとんど賊に戻った青州兵の働きで、曹操軍有利のままに進みます。
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ちなみに、このころの各群雄間の関係は単純に主従関係とか同格の同盟者とかのように割り切れるものではなく、袁術と公孫瓚は袁術を盟主とする同盟関係で、公孫瓚と陶謙も公孫瓚側の強い同盟関係と考えられます。劉備は公孫瓚の客将というべき位置で、広く言えば陶謙・劉備は袁術系に含まれるわけです。とはいえ、劉備が袁術を盟主として敬った形跡はほとんどなく、徐州牧となった劉備は袁術と終始対立しています。これは、袁術が匡亭で曹操に敗れ、淮南に逃げた時点で、「袁術派」の枠組みがかなり弱くなったのだと考えられます。前述の曹操の徐州攻撃に袁術は盟主として陶謙を救援せず、むしろその状況を利用して楊州支配に乗り出すなど、地方割拠政権の行動特性に近いことをしています。
しかし、孫堅は陶謙に援兵を送ったため、徐州との関係は保たれます。陶謙は袁術よりも公孫瓚に近いので、やはり徐州牧の印綬は劉備に送られますが、曹操の苛烈な攻撃を一緒に防いだという連帯感が劉備と孫策の間に生まれます。これは２人にとって貴重な財産になるでしょう。
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揚州刺史の陳温は陳寿によると１９２年に袁術に殺されています。裴松之は病死としていますが、どちらでも構いません。１９２年の袁術は淮南に移動する前なので、そのドサクサで殺したわけではないと考えられるからです。つまり、いずれにせよ１９２年に揚州刺史・陳温は死亡します。
その後任として、袁紹は従兄の袁遺を、袁術は陳瑀を揚州刺史に任じています。史実では結局、楊州の州都・寿春を押さえて実験を握ったのは陳瑀で、袁遺は逃げ延びる最中に殺されます（これが袁術の淮南入りの前なのか後なのかは不明）。しかし、袁術派のはずの陳瑀は袁術が曹操に敗れて淮南に来たときには受け入れを拒否し、怒った袁術の圧迫を受けて逃亡する羽目になります。
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孫策は「袁術に非協力的な」陳瑀を討ち、揚州刺史を自称。袁術に報告して認められます。その後はほぼ史実通り、むしろ袁術から離れている分だけのびのびと楊州を席巻し、「江東の小覇王」と恐れられます。長安任命の揚州刺史・劉繇などは着任もさせないでしょう。そうなると、劉繇が太史慈を招く暇もないので、太史慈との出会いはなくなります。太史慈は徐州の出身で、青州黄巾から孔融を救援するときに劉備と共闘していることもあり、徐州の劉備に仕えることになります。孫策の楊州（北部）制圧は１９６年に会稽太守・王朗を下して一段落します。
一方、孫策が楊州を攻めている間、孫堅は河南尹の袁術のもとに向かいます。豫州の制圧も一段落つき、呂布の闖入で曹操の圧迫が弱まった上、飢饉のせいで軍事行動ができなくなったためです。
孫堅は袁術に強引に洛陽再建を進めさせ、長安に攻め込んで献帝を奪還、洛陽に還都するように強く訴えます。袁術はむしろ、北上して袁紹と雌雄を決したいようでしたが、このころは呂布に追われた黒山賊が河内郡に侵入し、袁術を敵視して攻勢をかけてきていたため、その排除で忙しかったのです。
１９５年には曹操が呂布を破り（定陶の戦い）、呂布は劉備のもとへ落ち延びます。史実では１９６年に劉備と袁術が交戦中に呂布が徐州を乗っ取りますが、劉備と袁術方の豫州・楊州方面司令官である孫堅・孫策父子の間には信頼関係があるので、交戦は生じません。劉備・呂布の目はもっぱら曹操に向けられています。
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孫堅の失脚（１９６年～１９７年）
献帝を擁した袁術は人事権を握り、自らに協力的な人物を各地の太守や刺史に任じていきます。劉備の徐州牧も、袁術によって追認されます。同じころ、孫策が楊州の北半を平定し、洛陽の袁術に揚州刺史の認証を求めてくるころから、袁術は孫氏の勢力が強くなりすぎたことに危惧を覚えます。
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袁術は合わせて、孫策を揚州刺史に任じるとともに、孫策の平定した九江・丹陽・盧江・呉・会稽・豫章の各郡太守に自らの息のかかった者たちを任じます。州刺史には本来軍事権はなく、太守の持つ軍事権を刺史が監察権で牽制しながら引き出すという間接的な手法でしか軍権を振るえません（なお、州牧は軍事権を持ちます）。孫策はこれによって、楊州での自由な軍事行動を封じられます。その上、盧江太守の陸康など太守の地位を安堵することで協力させていた地元勢力との間に対立を引き起こします。
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劉備は驚いて徐州に戻り、呂布に「客将」として迎えられることになります。なお、曹操は豫州の大半を制圧したところで、孫策が手勢を引き連れて駆けつけたため、矛を収めます。
一方の劉備は小沛を拠点に勢力を回復しようと励みますが、張飛が呂布の配下とトラブルを起こしたため、起こった呂布が小沛を攻撃。劉備は豫州に亡命し、孫策を頼ります。孫策は劉備一党を父のいる帝都・洛陽に送り届けて楊州に戻ります。
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袁術は献帝に上表して呂布討伐の詔勅を得ようとしますが、呂布が董卓を討ったことにまだ恩義を感じている献帝は、これを許しません。袁術はやむを得ず勅許を偽造。曹操に呂布を打つよう勅使を派遣します。
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しかし、緒戦の敗北を反省した呂布が平地戦にしか応じなくなると、孫策軍も窮地に立たされます。江東の兵は平地では并州騎兵の敵ではないからです。高順・張遼といった猛将が騎兵で仕掛ける突撃に江東兵は散り散りになります。
孫策の苦戦を聞いた袁術は、紀霊将軍に劉備をつけて応援に向かわせます。徐州の陳珪・陳登父子が劉備に内通して呂布の動きを封じ、戦況がようやく好転します。
しかし、徐州を劉備の手に返すのを嫌った袁術はここへ来て劉備に洛陽へ戻るよう命じます。孫策の幕僚にいた張昭などの徐州出身者がなんとかつながりを保ち、苦戦の末に呂布を籠城戦に追い込んで攻め滅ぼします。
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袁術は、呂布と李・郭という董卓残党を討ち滅ぼし、長安を回復したことを自らの勲として、董卓が復活させた漢帝国の最高官位「相国」に就任します。紀霊・張勲といった古くからの部下や楊奉らに高位の将軍位を与えて軍権を掌握し、宮中の警護・軍事を司る光禄勲の位も孫堅から奪います。
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袁術は孫堅と劉備に南陽・宛城の張繍を討つように命じます。程普の助言を受け、劉備は太史慈を洛陽に残して出征します。
案の定、袁術はうるさい孫堅・劉備のいない間に献帝を脅し、自ら帝位にのぼろうとします。献帝は当初、抵抗しましたが、袁術が宮中に兵を配備して皇后や宮女、百官を人質にとって脅すとついに屈し、袁術に帝位を譲ることを認めます。
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太史慈は献帝を孫堅・劉備の軍に連れてゆきます。孫堅は張繍と和議を結び、宛城を仮の宮城として献帝を迎え入れます。同時に楊州の孫策らの下に使者を発し、「偽皇帝」袁術を弾劾して絶縁を宣言します。孫堅は数ヶ月前にも自分が陥落させたばかりの長安を再び攻めて下し、献帝を迎えるための宮城の修復に取り掛かります。
孫策は父から都の変事と袁術への絶縁を記した書を受け取ると、楊州各郡に配置しておいた腹心の者に命じて袁術に派遣された各郡の太守を血祭りにあげさせ、楊州を軍事的に掌握します。呂布討伐のために兵を手元に持っていたことが孫策に幸いしました。孫策は楊州牧を名乗って反袁術の決起に加わります。
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