感情ロールプレイ補助用システム「Keys of Emotions」(仮)

 

★はじめに

 この、感情ロールプレイ補助システム「Keys of Emotions」は、文字通り、RPGで感情面のロールプレイや、ドラマチックなシーン演出を「補助」するために作成しました。補助システムですので、基本判定ルールなどは持ちません。既存のシステムに連動させる形でご利用下さい。また、これはあくまで感情面のロールプレイを、特に演出において喚起しやすいようにと作られているだけで、PCの感情をルール的に縛る目的はありません。そのため、感情の変化などはダイスなどの乱数要因を排除し、全てプレイヤーの意志で行えるようにしました。ただ、他のプレイヤーに自分のPCの感情を婉曲に伝えるための手段として、感情強度の数値変更のためにシーン挿入などを推奨しています。伏線なしの感情的に無節操なロールプレイを抑止する意味もありますので、限定されたルールには、せめて従ってみて下さい。

 

 

★Key Emotion

 そのキャラクターの持つ主要な感情、重要な感情を「Key Emotion」と呼びます。主にこの感情は、対人関係における感情になりますが、そうでないときもあります。それぞれの感情には数値による強度が付けられています。通常、キャラクターが持ちうる感情強度の合計は30です。また、この感情強度はセッション中のイベントやPC(=プレイヤー)の自発行動によって、上下したり、追加、削除されたりします。

 キャラクターは時として、同じ相手に複数の感情を抱いています。それらのうち一つだけしか、普段は表に出ていないかもしれません。実はその複数の感情は、互いに矛盾するものかもしれません。人間は、感情は、そう割り切れるものではないのです。そうした感情のいずれが最終的に大きなものになってくるか、それはセッションの展開次第です。

感情の例)信頼、尊敬、憧憬、興味、忌避、不信、軽蔑、不満、義務感、親愛、愛情、好意

複数の感情の例)「先輩部員に対する尊敬」と、その裏に隠れた「憧れ的恋心」

 

★Key of Emotion

 それぞれの感情には、その感情を象徴する、あるいはその感情と強く関わる思い出を惹起する「何か」が設定されます。この「何か」を、「Key of Emotion」と呼びます。こうしたものを設定することによって、PC同士、あるいはPCと主要NPCとの間にそれにまつわる会話を成立せしめたり、またはこれらを小道具として、象徴的にその感情を扱うイベントをプレイヤーが即興で作りやすくしています。

 これには、次のような例があります。他にも自由に作ってみて下さい。また、セッション中に書き加えていくことも有効でしょう。プレイヤーもPCを通じて、そのKeyを共に経験しているのですから。

1:Key Item

 ちょっとした物品です。「彼に初めて贈られたプレゼント」、「先輩に訂正してもらった原稿」、「二人きりで写っている写真」、「一緒に作った自主作成映画のフィルム」、「逆転ホームランを打ったバット」などです。扱いやすいものとしては、「彼の写真の入ったロケット」などでしょうか。モノであるだけに、「紛失」や「破損」といった形での消却手続きが出来ることと、消却でなくても演出として「紛失」「破損」を扱うことが出来る特性があります。

2:Key Spot

 思い出にまつわる場所です。「三人でよく遊んだ公園」、「初デートで入った喫茶店」、「一緒に通った中学校」、「拳と拳で語り合った河原」などです。喧嘩をしたり、勢いで飛び出したりしてどこにいるか分からなくなったときに、「もしかしたらここに、いるんじゃないかと思って……」と相手を「発見」したり、「再会」したりする場所として、あるいは懐かしい思い出に浸りながら散歩する場所として、演出に利用できます。

3:Key Song

 思いを象徴する曲です。歌詞のついていない、「Key Melody」もあります。「自分の感情を的確に歌い出した歌謡曲」、「カラオケでデュエットした曲」、「一緒に必死で練習した曲」、「彼の作った曲」などです。感情的なシーンでBGMとして利用できます。その調べは、たとえ一時的にせよ、あなた達をあの日にいざなってくれるでしょう。また、セッション中に実際に曲をCDなどで流すのも、洒落ているかもしれません。

4:Key Word

 ごくありふれた言葉、短い単語。しかしあなたはその言葉の向こうに、あの人の思いを、あの人への思いを、あの人との思い出を感じます。「夢」、「愛」、「真実」といった抽象的な言葉に、かつて二人は心を一つにした時期があったかもしれません。「絶対」とか「奇跡」とか、口癖のように口にする言葉がありました。二人の会話の中で出てきたその一言は、言葉以上の意味を、あなた達に対しては持っているのです。セッション中の掛け合いから取り出してメモしておくのには最適でしょうし、そのことを知らない第三者が口にした単語に動揺する、という演出が可能です。

5:Key Sentence

 誰かの言った台詞でしょうか、強く印象に残っている台詞(文)です。他人にはどうってことのない台詞かもしれませんが、あなたには特別な意味があるのです。台詞は再生産が可能なため、他人に伝えることでその意味づけを変化させることが出来ます。

6:Key Season

 思い出溢れる季節です。単純な四季だけの区分ではなく、正月や梅雨、「桜の季節」といった指定もできるでしょう。その季節に忘れ得ぬ思い出があるのです。その思い出を大事にするにしろ、訣別しようとするにしろ、毎年巡ってくるその季節は、一つの契機になり得ます。主にシナリオで取り扱うその季節にしておくべきでしょうが、わざとずらしてみるのも一興です。「いまが春だったら、あの子なんかに負けないのに……」という負け台詞はどうですか。

7:Key Weather

 忘れ得ぬあの日の天気です。「こっちまで泣き出したくなるような大雨」、「未来に希望を持てるような青空」、「不気味に鳴る雷の音」など。セッション中に、そんな天気の日が巡ってきたら、あなたはあの日のことを思い出すかもしれません。

8:Key Memory

 物理的な何かを伴っていなくても、大切な思い出があります。「溺れそうになったのを必死で助けてくれたこと」、「連日居残り練習に付き合ってくれたこと」などです。ただ、記憶とは主観的なもの。あなたの記憶と同じモノを、相手が記憶しているとは限りません。あなたにとっては印象的で、大切な思い出でも、相手は気にもとめず忘れているかもしれません。あるいは、あなたか相手か、どちらかの記憶は間違っているかもしれません。

 

 

★感情強度とその意味について

 一人のキャラクターのもてる感情強度の合計は30点です。ただし、一つの感情に対しては10点までしか持つことが出来ず、その状態は既に「偏執的」です。以下に、感情強度の目安を示します。

1:うっすらとした思い。勘違いかもしれないレベル。

2:自覚的感情。折に触れて気になる。

3:認識している感情。注意して行動を観察されると、感情が読まれる恐れがある。

4:はっきりと認識される感情。注意して行動を観察されれば、感情が読まれる。

5:強い感情。隠そうとすると、対象の前では行動がぎこちなくなる。

6:抑えられない感情。その感情を行動に出さないではいられない。

7:強烈な感情。対象に対して顕示的な行動に出る。

8:あふれ出る感情。第三者に「見せつけ」的な行動に出る。

9:暴走的な感情。頻繁に感情を表明し続けずにはいられない。

10:偏執的な感情。恒常的に感情を表明し続けずにはいられない。

 

 

★PCの持つ感情について

 PCは、合計で15点前後の感情を初期状態で保持します。この際、単独で感情強度7を超えるものは持たせない方が無難でしょう。

 同じ対象に複数の矛盾、あるいは微妙に異なる感情を持っている場合、数値の高い方が優先されます。例えば、「友人感情:3」と「恋心:2」を持っている場合、友人感情が普段の行動では表に出てきます。これを、「優性感情」と「劣性感情」と呼びましょう。劣性感情は無意識下に潜っている感情ですが、徐々に力を持ち続けています。そして、何かの弾みで両者の優劣関係が逆転すると、途端に表面に出てくるわけです。

 また、同じ対象でなくても、行動選択の際に2つの感情が矛盾した結論を示す場合には、数値の高い方に従って下さい。例えば二人の異性を愛してしまっている状態で、どちらかを選べと迫られたら、基本的に感情強度の高い相手を選ぶことになります。ただし、決断には実際は他の要素が介在することが多いので、常に感情強度のみで自動的に決まるものでもないでしょうが。

 感情強度の変化は、プレイヤーの宣言によって行います。この時、@感情変化のためのシチュエーションでなくてはならない、A感情変化のルールに従う、の2点を守って下さい。

 感情変化のためのシチュエーションは、次のようなものです。

・モノローグ(独白):PCが一人でいるときに、その感情にまつわるロールプレイをする。Key of Emotionを利用したシーン演出や、台詞での独白など。

・相談、吐露:第三者に思いの丈をぶつけることで、自分の心の整理をします。酒場で親友と杯を傾けながら、といった具合です。

・接触:その感情の対象と一緒にいるシーンで、直接に会話を交わしたり行動をしたりしながら、感情を変化させます。

・決断:その感情を強く示す、あるいはその感情を否定するような行動をする際に、「覚悟を決める」ために数値操作をすることもできます。この場合、他人が近くにいても大丈夫です。

 感情変化を宣言するタイミングは、主としてその瞬間です。シーン中に発言をしたり、アクションをしたりした直後に宣言して下さい。ただし、ロールプレイに没頭していて宣言を忘れたり、遅れたりする場合もあるでしょう。その場合、そのシーンが終わり、次のシーンに切り替わるまでの間には宣言を認めます。それ以降になると何がきっかけでどういう感情の変化が起きたのかが分かりづらいためです。

 変化のルールとしては、@1つのシーンで操作できる感情は2つまで。A1つの感情につき、上下できる感情強度の数値は2まで。B接触の場合のみ1シーンで3点までの変化を認めるが、この場合は2点と1点を分離して行うこと。C同一対象に対しての感情の変化(例えば、親友に裏切られた際に、「親愛」から「憎悪」への変化)は、感情強度を半分にして移行することも出来る。D新しく感情を取得する、あるいは感情を消去する場合は、それぞれ「感情強度0」として扱う。といったところです。

 感情を変化させる場所、数値、タイミングは全てプレイヤーが判断して下さい。感情を数値で示すのは、PCの現在の心境を表示し、ロールプレイの指針とするためであって、プレイヤーのロールプレイを縛るためのものではありません。PC=プレイヤーが受けた印象などから、積極的に感情を変化させて行くべきです。

 

 

★NPCの感情について

 NPCの持つ感情については、初期状態での感情強度の数値を少し高めに設定して、精神的ゆとりの少ない状態にしても構わないでしょう。また、感情変化などの操作ルールもPCと基本的に同じですが、「独白」はPCたちの見ていない場所で行われるので、セッションの表面に出てきません。ただ、独白による変化をさせるにしても、GMはきっかけを受けた形にするよう、節度が必要でしょう。

 PCからのアプローチによる感情変化に際しては、そのNPCの持つ感情のKey of Emotionを利用して刺激するのが有効です。また、そのNPCがPCにKey Emotionを抱いていない状態ならば、そうしたモノを抱かせるようなイベントを作って、アプローチをかけるという行き方もあるでしょう。その際には、あとで使いやすくなるようにKey of Emotionを用意することをオススメします。

 NPCの感情を変化させる基準については、PCのアプローチをどう評価するかにかかってきますが、いくつかの基準を事前に設定しておくべきでしょう。

 NPCが感情を中心にした判断を下すときは、必ずその感情強度の数値を基準に決定して下さい

 

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