調査型シナリオの作り方

 

1)序文

 RPGを楽しむためには、まずシナリオが必要になってきます。市販のシナリオ集などもないわけではありませんが、質的量的趣向的に、だんだんと不満が出てくることでしょう。となると、自分に満足のいくシナリオは自分でつくっていくしかありません。

 しかし、それではシナリオというのはどのようにして作ればよいのでしょうか。

 市販のルールブックなんかには、結構簡単に作れるようなことが書いてありますが、アレは甘い罠。実際に作り始めてみると、いろいろと分からないところが出てきます。もっとも、シナリオ一本書き上げるのは、実は大して難しくはありません。問題はそれを実際に使うときに出てくるものですから。

 さてさて、ではそのシナリオの作り方というのは、一体どのようなものなのでしょうか。

 今回は小生、まだまだ未熟者ではありますが、シナリオ作成にあたっての様々の留意点などを、可能な限り列挙して、卑見を少々披瀝いたしましょう。もしこれが皆々様のシナリオ作成のお役に立てましたらありがたいことです。実力の限界として、実際の用には立たずとも、どなたか優れた御方が、よりよい作法書を書く際の、踏み台くらいになるならば、それも勿怪の幸いです。

 

2)調査型シナリオについて

 とはいったものの、奥深く幅広いRPGの様々なシナリオの、全てに当てはまるようなシナリオ作法は、一朝一夕で書き上げられるものでもありません。そこで、今回はその中でも特に、調査型シナリオに的を絞って議論を展開することにします。

 その前提として、調査型シナリオとはどんなものか、という点についての論及が必要ですね。

 調査型シナリオとは、伝説・民話や事件の真相、真犯人などを調査していくことがシナリオ展開上の大きなウエイト(特に時間的ウエイト)を占めるシナリオを呼ぶことにします。ただし、この区分は決して排他的なものではありません。たとえばラブコメ・シナリオがあったとしても、調査型+ラブコメ・シナリオというカテゴリーは存在しますし、調査型宮廷陰謀シナリオや調査型説得シナリオもあるはずです。

 今回、特に調査型シナリオに絞ったのは、この調査型シナリオというのが、他のカテゴリーとの重複を含めれば、RPGのシナリオの大半に及ぶものだと考えるからです。それは、なぜでしょうか。

 RPGを小説や映画と同じ創作の一ジャンルとして認識する場合、他のジャンルと決定的に違うのは、マスターとプレイヤーの関係性ではないでしょうか。この両者の関係は、他の創作ジャンルにおける作り手側と消費者(読者・観衆)のそれほど、固定的なものではありません。マスターは確かに物語についてかなりの部分まで用意してきますし、主導権は握っているかもしれません。しかし、セッションの場で実際のストーリー展開を紡ぎあげていくのは、間違いなくプレイヤーの役割なのです。

 であれば、プレイヤーがストーリーを紡ぎあげることが出来るだけの配慮が求められます。元来が一方的受容者でない以上、プレイヤーは常に情報発信を望んでいるものです。しかし、現実問題としては、発信すべき情報がなければ、情報発信など出来ません。もっとも、ストーリー展開とは関係なく、キャラクタープレイをして楽しむ、という行き方もあることは事実ですが、シナリオ作法においてはこのようなプレイヤー主義を採りません。

 余談になりますが、プレイヤーに有意義な情報発信を認めない、という方向では、「ジェットコースター型」RPGや「観客型」RPG、またはダンジョン・アドベンチャーなどが考えられます。ジェットコースター型とはPCがどう頑張っても事態が強制的に展開するもので、この場合、息もつかせぬハイスピードで刺激に溢れた展開と、強制力を備えさせる必要があります。観客型はPCがシナリオ中に展開する事態に当事者として参加せず、その推移を横から見守るもので、こちらには「本筋」以外にプレイヤーが遊ぶだけの余地と遊び道具を揃えておく必要性があります。ダンジョン・アドベンチャーではPCの行動は無機的な閉じた空間の中に限定されるため、そこでの行動選択肢やその結果は順列組み合わせの予測範囲内、ということになります。この場合はトラップなど、プレイヤー(とPC)をあっと言わせる仕掛けが欲しいところでしょう。

 プレイヤーが情報発信するためには、目的がまずは必要になってきます。しかし目的だけが漠然と存在しても、それに至る筋道、つまり方法論がなければ、それはそれで何も語れません。つまり、RPGという双方向的創作ジャンルにおいては、目的とそれに対する方法論が常に存在していることが死活的に重要なのです。

 ここにおいて、調査型シナリオがRPGの主流を形成する理由が見えてきます。調査型のシナリオでは、調査という大目的が存在します。調査がシナリオの中心の場合、その目的はセッション時間の大半で有効です。後は、「真相」を知るための調査手段が暗示的あるいは明示的にプレイヤーに示されていればよいのです。

 こうしていると、プレイヤーは手持ち無沙汰になりません。限られた情報から真相を推理し、それを確認するために、あるいは新しい情報を得るために、次の調査手段を考案する、という仕事が、プレイヤーには常に与えられるからです。

 以下の論考で具体的に触れますが、ここで方法論が途絶すると、いわゆる「手詰まり感」を感じます。調査型シナリオはプレイヤーが形式的に主導していく面が強いだけに、手詰まりとマスターからの強制イベントによる情報提示を繰り返すと、プレイヤーに徒労感、無力感を感じさせるコトになりますので、そこはご注意下さい。

 このように、調査というのはRPGのメディア属性に極めてよく合致したシナリオ形態なのです。であればこそ、完全な調査型シナリオとはいわないまでも、調査をシナリオに大きく組み込んだシナリオが多く存在してくるわけです。

 さて、以降の論考ではシナリオを、主として調査型シナリオの観点からのみ分析し、調査型シナリオに必要なイベント配分などを考えていくことにします。以下の論考にあたり、「調査」によって知ろうとするべき事柄のことを「真相」という言葉で表現します。ここでいう「真相」には、本来の語義とは少々異なる意味内容も含まれてくるかもしれませんが、一般化して議論を展開するための用語として、ご理解下さい。

 

3)「起」部

 シナリオの構造解析をするのに、いわゆる「起承転結」型で考えるのは、人口に膾炙している分、便利でもありますし、有意義でしょう。今回の論考は、起承転結型で構造分析を行っていきます。まずはその、「起」の部分です。しばらくは「調査型」シナリオから離れて、一般論に近くなります。

 起部において重要なのは、様々な基礎情報を過不足なく提示することです。基礎情報とは、どのようなものでしょうか。

 第一に舞台設定と状況設定、第二に登場人物、第三に行動指針です。順番に見ていきましょう。

 舞台設定や状況設定は、通常、シナリオ開始前にあらかたはプレイヤーに伝わっているはずです。「ファンタジー世界でPCは冒険者。とある村を訪れたところから物語は始まる」。「PCは高校2年生のクラスメート。季節は秋。文化祭を目前に控えたある日」といった具合に。

 しかし、こういった情報は、無味乾燥でプレイヤーに訴えかけるものがありません。いわば「死んだ情報」と言っていいでしょう。情報を生きたものにするには、簡単なイベントを設けてそういう雰囲気を醸成しなくてはなりません。後者、「文化祭目前」でいうなら、クラス委員がクラスの出し物の準備を手伝うよう声をかけてくる、隣のクラスの友人がお化け屋敷のチケットを売りつけに来る、演劇部の先輩が練習に昼休みも使うと宣言する、などです。こうしたネタフリをして、それに対するPCのリアクションをもらう、といったコトを繰り返していくと、セッション空間に仮想世界の共有感が生まれてゆきます。特に学園モノの場合、こうした日常会話的掛け合いからそれぞれのキャラクターの確立が行われますので、ゆるがせに出来ません。

 特に「南北を二大勢力に挟まれ、明日をもしれぬ小国の城主」などの切迫した状況は、字面だけの情報では緊迫感が絶対に伝わらないので、何らかの象徴的なイベントを用意することが必須でしょう。

 次に、登場人物ですが、これについては特筆することはありません。主要NPCや、あるいはPCのキャラクターを明確に提示できるイベントを初期に用意することの必要は、わざわざ言わずともお分かりいただけるでしょう。キャラクターについても「冷酷無比な」とか「温厚な」といった形容詞ではなかなかにイメージは伝わりにくいもの、出来るならば登場願って、PCと一言二言会話を交わしてくれれば、よっぽどそのキャラクター性が伝わります。

 NPCの数があまりに多い場合は、その登場のさせ方には工夫が必要です。一人一人でてきては自己紹介的イベントを一つずつこなしたのでは、あまりに芸がありません。プレイヤーからしても「顔見せ」というイメージを強く持ってしまいます。舞台裏が露骨に見えるようでは、さすがにいただけませんね。

 また、こうした基礎情報の提示のためにイベントイベントと詰め込みすぎるのは考えもの。というのは、イベントはどうしても時間をとるからです。ですから、可能な限り多くの情報を少ないイベントで提示できるようにしておいた方がいいでしょう。例えば、状況設定を提示するイベントに重要NPCを登場させ、彼のキャラクターを端的に示すロールプレイをすれば、二つの情報を一つのイベントで提示できます。さらに、これを単なる状況提示にせず、シナリオの発端とすれば、三つの情報を一気に示せるわけです。

 三つ目、行動指針の提示ですが、これがRPGの特質であることは、もはや繰り返さずともよいでしょう。PCが自発的に行動していくためには、行動目標がどうしても必要です。調査型シナリオの場合、調査目標ということになります。

 調査目標の提示については、明示型と暗示型とが考えられます。

 明示型とは、誰かNPCが「○○について調べて欲しい」といった形で依頼するものです。依頼の他にも、新聞社のPCなどがデスクから取材を命じられる、という形も考えられるでしょう。

 これに対して暗示型は、何を調べろ、と明瞭な形でGMが口にしないものです。例えば、新婚ほやほや、ラブラブの家庭で、ある日、帰宅したら奥さんがいなくなっていた、という状況はどうでしょうか。旦那さんがPCですが、この場合、彼は妻の行方を探すでしょう。GMはNPCの口を通じて「奥さんを捜して欲しい」などとは言っていないのに、です。

 さて、ここに動機付けの問題が絡んできます。PCはなぜその「調査」活動を行うのか、の動機です。動機はその後のシナリオの展開、変化の過程で、PCがその事態に継続して関与し続けるかどうかを決定づける上で重要な役割を果たしてきますから、ある程度しっかりしたものを用意しなくてはいけないでしょう。

 明示型の場合、依頼または命令という形で、一種の契約関係にあると考えられます。契約の場合は契約条件がありますから、その条件自体が「動機」だと考えていいでしょう。金銭と信頼、身分などが主なものになってくるでしょうか。ラブコメなどで憎からず思っている異性からの依頼なら、動機・条件は「彼女の好感」になるはずです。

 問題は暗示型です。暗示型の場合、基本的にはPCが独自判断で調査活動に乗り出すのですから、動機はかなり明確で強いものである必要があります。先の例で、「行方不明になった妻を捜す」という調査活動の場合、「新婚ほやほやでラブラブな夫婦」であることがミソです。これが、倦怠期で、とはいえ離婚するほどではない、という程度の夫婦関係だと、仕事を休んでまで妻を捜さない可能性があります。警察に届けを出して、終わりでしょう。

 暗示型の場合、動機と並んで重要な点として、調査手段があります。動機があまり強いものでなくても、簡単に調べられそうだったら気軽な気持ちで請け合うものです。調査の難易度とそれに取りかかるに必要な動機とは比例します。調査の難易度、といっても実際に調査にあたってみないと分からないので、この場合には「見通し」というほどの意味になるでしょうか。

 調査手段の提示も、忘れてはいけません。詳しくは「承」の部で述べますが、常にある程度の調査手段=手がかりを提示し続けなくては、PCはやはり動けなくなります。

 調査型シナリオの要諦の一点目は、調査目標の提示にあります。以上見てきたように、一般に明示的な提示の方が簡単であり、確実ではあります。ですが、毎度毎度依頼型、というのではワンパターンになってしまいます。ですから、馴れてきたら暗示型の調査シナリオを作ってみませんか。その際に注意すべき点は、動機と手がかりです。

 プレロールドは暗示型の調査シナリオに向いています。PCがシナリオ構造の中に組み込まれているために、かなりの切迫感を感じて調査行動に乗り出してくれるからです。

 プレロールドに関していうならば、調査型シナリオの亜種としてお互いの裏設定を探り合うようなシナリオも考えられます。プレロールドの裏設定に関しては、それ自体がどうしても「死んだ情報」になりがちな点など、指摘すべき論点は多くありますが、プレロールド論はまたの機会に譲ることにしましょう。

 

4)「承」部

 起部でプレイヤーには状況が提示され、調査目標が提示されました。PCたちは調査活動に入ります。調査活動の大半を、ここでは「承」部としましょう。

承部のキーワードは、手がかり、仮説、ミスディレクションの三点です。

 調査活動を継続して行くには、手がかりが存在し続けることが必要です。手がかり、あるいは調査手段といってもよいでしょう。

 例えばソードワールドのシティ・アドベンチャー型調査シナリオでは、ほぼ常に「捜査の基本」として三つの場所が取り上げられます。ラーダ神殿、魔術師ギルド、盗賊ギルドです。たいてい、冒険者が調査活動に従事する場合、こうした場所に赴いて調べものをするでしょう。ソードワールドに限らず、クトゥルフにおける図書館のように、シナリオによらず情報源である場所のことを、仮に「一般情報源」と呼称しましょう。

 こうした一般情報源は、シナリオによらず利用できますから、PCは調査の初手、あるいは手詰まりになるとこういった場所に足を運ぶことが多くなります。また、たいていのシナリオで利用するという意味では、「おなじみ」な部分が強くなります。一般情報源を多用しすぎるとシナリオ本来の一期一会性が弱まり、単純作業化するおそれがあるので、注意すべきでしょう。

 むしろ、シナリオ作成段階で考えるべきは、「独自情報源」の設定です。例えば、事件現場に落ちていた珍しい宝石の粉を手がかりとして提示すれば、宝石店に調査に行く、というオプションが出てきます。ラーダ神殿に聞きに行った場合は、そこで答えてもよいですが、普通は「たらい回し」しますね。でもできるなら、怪しい宝石商なんかをそれ以前のシーンで登場させておいて、彼に話を聞きに行く、という選択肢を印象づけるのも手でしょう。

 情報、手がかりは芋蔓式であることが望ましいです。芋蔓式とは、ある手がかりから調査行動を起こしたときに、新たな手がかりが得られる、という形です。芋蔓式にしておかないと、調査が「手詰まり」に陥る可能性があります。プレイヤーの推理力は時と場合によってかなり幅がありますから、あまり情報が多すぎるとかなり早い段階で真相に迫られてしまうことも考えられます。序盤は情報を少なく、終盤に近づくに従って加速度的に、決定的な情報を提示していくのです。

 手がかりの分岐、というのも面白いでしょう。一つの調査行動で、複数の手がかりを発見できれば、それだけ調査は効率的になります。何より、選択の幅が広がることは、プレイヤーに自由度を感じさせる効果もあります。

 「転」の手法にも近いですが、途中から新たに手がかりを提示するのもよいでしょう。調査の進捗状況を見ながら、イベントによって加減するのです。人を捜しているなら、その探し人を町中で一瞬だけ見かける、とか、連続殺人事件なら新たな事件が起きる、といった具合です。PCの行動と関係なく起きるという意味では、「転」の部分で説明する強制イベントでもあります。

 調査段階では、様々な情報が入ってきます。PCたちはこういった情報を元に、真相に迫るために仮説を立てるでしょう。なかなか難しいことではありますが、余力があるなら、情報はこうした仮説を意識したものでありたいものです。

 セッション中に全部で十個の情報が示されるとしましょう。このうち、最小では三つの情報があれば真相が判明する、ということは往々にして有り得ます。すると、シナリオの展開を考えながら、情報が提示されていく順序を考えておく必要があります。更に言えば、情報が不足している段階で、別の魅力的な仮説が想定できるように情報管理を徹底させることが出来れば、なおよしといったところでしょうか。

 裏技的な手法としては、プレイヤー達の「仮説」が誤りだったとしても、そちらが面白ければセッション中に乗り換える、という手もあります。この場合、以後の情報に矛盾がないように整理する必要性もあるでしょう。実はこの手法は、結構有意義です。というのは、事実関係に対する認識というのはかなり個人差があるものなので、セッション中の提示がうまくいかない場合や、GMが判断の前提にしていた一般常識をプレイヤーが共有していない場合などで、どうしても真相に辿り着けない場合があるのです。こんな場合に、ムリヤリ真相を押しつけるよりは、適当なところで折り合いをつけるのも悪くはありません。もっとも、プレイヤーにただ迎合するだけだとしたら、むしろ問題ですが。せめて「転」は必要ですしね。

 また、PC同士が分断行動をとっている場合、それぞれに決定的な情報の一端だけを渡して情報交換させない、という手法もあります。この場合、プレイヤーは真相について推理できるが、PCはまだ分からない、という状況になります。こうなるとメタ行動の話になりますが、その点についても今回は割愛します。

 仮説のための情報調整が難しい場合、ミスディレクションの手法を使うのが効果的です。これは、はじめから誤った仮説を念頭に置き、そういう結論を導きやすいような情報をPCの手に入りやすいようにする、というものです。真相が意想外のものである場合、こうしたミスディレクションは特に効果的に働くでしょう。プレイヤーが真相に気付いたとしても、PCとしてはいきなりそのような意想外な真相を主張できない場合なども往々にしてあるものです。学園モノで盗み食い事件の真犯人が実は食いしん坊怪獣モットクレロンだった、などという結論は、軽々には下せないのです。多少無理があったとしても、クラスメートの誰かに罪をなすりつけるでしょう。

 ミスディレクションの手法を用いる際に留意すべきは、情報に二重の意味を持たせる必要性です。与えられる情報は、誤った結論を導き出させるためのものではありますが、一方で真相に迫る情報でもあるからです。誤った結論は導き出せるが、真相が閉ざされるような情報では困ります。もちろん、「偽情報」という手法もあります。似た手口の事件だが同一犯ではない、とか、ただの見間違い、とか。その場合、情報のキャンセル手続きをとった方がよいでしょう。PCが誤った結論に陥ってひとしきり苦戦した後で、実はこれこれの情報は、間違いだった、ということが判明するようにするのです。鑑識の結果、他のケースと指紋が一致しない、といった具合に。

 具体的に提示すべき情報や手がかりの考え方ですが、大きく分けて二通りの手法があるでしょう。一つは、真相から敷衍して手がかりを設定していくやり方、もう一つは、セッションの展開=調査の流れの方に着目して手がかりを配置していくやり方です。実際的には、前者を考えた後、後者の手法で補う、といったところだと思います。ここで気をつけておきたいのは、前者だけだと情報が不足して真相に迫れないことになりかねず、後者だけでは情報の筋が一本道になりかねないことです。

 手間暇を考えると両方をやるというのは結構しんどいことかもしれませんが、本腰を入れてシナリオを作るときにはやってみるべきでしょう。馴れてくれば、短時間で出来るようになるんではないでしょうか。

 

5)「転」部

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 RPGのシナリオに限らず、小説、演劇など物語モノでは、この「転」の部分は極めて重要です。転部がないと序盤からの話の単純な延長線上に物語展開が終始してしまい、厚みも深みも面白みも欠けたものになってしまいます。

 さて、それでは調査型シナリオにおける転部とは、どのようなものでしょうか。

 ここでもう一度、今回の考察で取り上げている調査型シナリオとはどういうものか、もう一度振り返ってみましょう。調査型シナリオとは、調査行動がセッションの多くの時間を占めるものではあっても、必ずしもシナリオ全体が純粋調査のものだけを意味するものではありません。調査・ラブコメ型とか、調査・陰謀型が存在するとは、そういう意味です。

 とすると、シナリオ構造全体で考えた場合に、転部は必ずしも調査行動の範囲内で行われる必要はない、とも言えます。調査活動事態は承部までで終了し、転部はそれ以外のシナリオ構造で対処する、ということが有り得るでしょう。あるいは、調査活動が終了していなくても、転を調査以外の次元で行うことも考えられます。

 調査型シナリオの利点である、行動目標が明確で継続して存在する、という点はシナリオが構造的に転を要求するのとは別次元のロジックですから、同列に論じる必要はないのです。

 それでももちろん、調査部分に転部を持ってくることも可能です。この場合は、承部でも簡単に触れたとおり、強制イベントという手法か、ミスディレクションの手法を使うことになります。

 つまり、プレイヤーの行動に関わらず、突発的・強制的に起こるイベントによって、新たな、そして重要な手がかりを与えるのです。これによって、捜査は手詰まりから解放され、また、ミスディレクションからも解放されることになります。

 ただし、「手詰まりから解放される」といいましたが、実際にPCを手詰まりの状態にまでいかせてしまうのは問題です。そうすると、強制イベント=GMの思惑によってセッションが初めて進展する、ということになってしまうからです。こういうことが続くようだと、プレイヤーは自由度を感じなくなり、GMに対する信頼感が低下します。

 タイミングとしては、手詰まりに陥る直前、くらいがベストでしょう。実際にタイミングを計るのは極めて難しいのですが。

 具体的な「転」の例としては、真犯人や探し人とのニアミス、第二第三の殺人などが多いのではないでしょうか。一番やってはいけないのは、NPCが新しい証拠品を持ってくる、というパターンです。これをやるとプレイヤーの無力感が高まること請け合いですから。

 

6)「結」部

 転部に書いたのと同じ議論を繰り返すことになります。「結」部まで調査部分、というシナリオはそうそうないのではないでしょうか。調査部分における「結」ということなら、話は別ですが。

 最終的に真相に到達するのが、この結部です。その真相とシナリオの種類によって、その後の対応は自ずから変わってくるでしょう。ここでは、小生の結部に関する一般的な考えを述べさせていただきます。

 結部はセッションのクライマックスです。一番盛り上がるように設計しなくてはなりません。RPGのシナリオで一番盛り上がるのは、どういう場合でしょうか。ダイスを振って意外な結果が出たとき、特に戦闘シーンなんかもそうでしょう。ですが、それ以上に盛り上がるのは、PC同士が魂の言葉をぶつけ合い、それぞれの立場、考えを示すシーンではないでしょうか。それこそ、セッションの総決算であるラストシーンに相応しいとは思いませんか?

 例えば、連続猟奇殺人事件の意外な真犯人が、事件を起こすに至る戦慄の事実を語ったとき、調査活動を進めてきたPCたちは、なんと言うでしょうか。犯人の立場に、同情と理解を示す者もいるでしょう。親しくなったNPCを殺され、絶対に許せないという者もいるでしょう。それは、彼らPCの心の声であると同時に、そのセッションに対する、プレイヤーの感想でもあるわけです。

 そんなラストシーンを、演出してみませんか。そのためには、事態を単純に割り切れるものにしないこと、PCそれぞれに与える情報と印象を操作すること、そして最後に、言葉をぶつけ合うだけの時間を与えることが必要です。

 もちろん、全てのシナリオに共通していえる手法でもありません。ほとんど、小生の個人的な好みに属すことでしょうが。

 

7)結語

 と、一通り調査シナリオ作成の要諦を眺めてきたわけですが、小生もまだまだ未熟者、至らぬ点もいくつもあるでしょう。また、純粋な調査型でないシナリオとは具体的にはどういうシナリオ構造を持ったものなのかも、明確には出来なかった部分があります。こうした点については、次回以降、機会を見つけてフォローしていきたいと思います。

今後の具体的な目標としては、プレロールドに関する議論とメタ思考に関する議論を書き上げたいと思います。

 

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