映画「小説吉田学校」

 

 戸川猪佐武氏の同名小説の映画化。第二次吉田内閣成立から、吉田政権の崩壊までを描く。前半はサンフランシスコ講和条約に至る吉田茂の活躍を中心に描き、後半では独裁色の強くなった吉田政権打倒を目指す、鳩山派の三木武吉を中心とする。やや長編で、登場人物も多いため事前知識がないと少し分かりにくいかもしれない。

 主要な政治家を演じる役者さんが、大変よく雰囲気を出しているのがこの作品を光るものにしている。吉田茂、松野鶴平、佐藤栄作、池田勇人、広川弘禅、鳩山一郎、三木武吉、河野一郎、田中角栄などである。特に、広川弘禅役の人(サッポロ一番のCMのお父さん、「渡る世間は鬼ばかり」の岡倉大吉役。名前忘れた)の演技は光っている。とはいえ、このあたりの政治家の実際の立ち居振る舞いを見たことがあるわけでもなんでもないのだが。

 この映画が発表になったのは、中曽根政権発足直後くらいらしい。製作はおそらく、鈴木善幸政権に行われたのだろう。そうした政治の匂いがぷんぷんするのも面白いところ。サンフランシスコ講和の事前交渉に池田勇人蔵相が密使として渡米するシーンで、当時蔵相秘書官だった宮沢喜一氏が登場する。おそらく、これに対抗しようとしたのだろうが、映画製作当時の「ニューリーダー」たちが、軒並み登場しているのである。ほとんど端役で(笑)。以下に、列挙してみたい。括弧内は作品内の当時の役職である。

竹下登(島根県議):吉田総理講演終了時に、議場の扉を開ける役。

安倍晋太郎(毎日新聞記者):吉田首相が記者に水をかけた事件で「抗議する」と息巻く。

田中六助(日経新聞記者):安倍晋太郎と同じ。

中川一郎(大野伴睦秘書):吉田の幹事長人事に大野伴睦が反対するのに同調。

渡辺美智雄(栃木県議):抜き打ち選挙時の河野一郎の辻演説の応援。

海部俊樹(河野金昇秘書):吉田と改進党の三木武夫、河野金昇らの会談に秘書として同席。

二階堂進(自由党代議士):抜き打ち選挙で名前を連呼しての選挙活動。

河本敏夫(改進党代議士):三木武夫、中曽根らと共に吉田の単独講和に反対を唱える。

 ちなみに竹下は製作当時、田中派(現在の橋本派)のニューリーダー、安倍は福田派(森派)の御曹司、田中六助は鈴木派(堀内派)のニューリーダーで後に宮沢に敗れる。中川は小派閥「中川グループ」を率い、渡辺美智雄は四十日抗争以来中曽根派を離れてはいるが後に中曽根派を継承、海部俊樹は河本派のニューリーダーで、二階堂進は田中派会長。河本敏夫は河本派の会長で中曽根と並ぶ有力な総裁候補であった。

 このほか、福田赳夫は選挙活動だけの端役で登場しても大平正芳が登場しないのは、既に大平が死んでるからだろうな、とか、裏の政治的駆け引きが透けて見えて面白い。でも、三木武夫、河本敏夫、中曽根康弘の三人が改進党の中で反吉田色を強めているシーンは、製作当時の政局(中曽根派は主流派、河本派は非主流)との関係で、ちょっとやばくなかったのかなどと要らぬお節介も焼きたくなる。

 

 

 

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