2003年


『アヒルと鴨のコインロッカー』(伊坂幸太郎/東京創元社)
本・特別賞『甲賀忍法帖』(山田風太郎/講談社文庫) / 『バジリスク 〜甲賀忍法帖〜』(原作・山田風太郎 漫画・せがわまさき/講談社)
ノミネート全146作
 傑作な小説のタイトルは「読む前に興味を覚えさせることと読んだ後に他のタイトルが思いつかないくらいの説得力を持っている」ことが多いに違いないはずであり、 その点から考えると『アヒルと鴨のコインロッカー』は間違えなく傑作です。
 この小説は、「ぼく」こと大学新入生・椎名と「私」ことペットショップ店員・琴美を語り手に、 それぞれが「現在」と「二年前」で「広辞苑強盗」と「連続ペット殺し」に巻き込まれていきながら物語が進んでいきます。 「現在」と「二年前」が交互に語られる、というのはつまらない言い方をすると「よくあるパターン」です。 だから、この作品の「トリック」もつまらない言い方をすると「よくあるパターン」であり、 実際途中で見抜いた方も多いらしいです(もちろん私は全然見抜けませんでしたが)。 ですが、「トリック」を見抜けてしまったらこの作品が価値を失うかと言うと、そんなことは全くありません。 この作品で肝心なのは、「現在」でも「二年前」でもなく、「その間の2年間」だからです。 このあえて描かなかった、「現在」と「二年前」から窺うことしか出来ない「その間の2年間」の物語の途方もない長さに思いを馳せて、泣きました。
 他の皆様同様、読了後に早速再読しました。気になる部分に栞を挟んでチェックしたり、ぱらぱらと眺めたり、文庫化の折に再読することはよくやるのですが、 読了直後に再読するのは私にしてはかなり珍しいことです。 で、読み直してみたら序盤から思っていた以上にしっかりと「トリック」や「その間の2年間」に触れてあって、また泣きました。
 ちなみに、2003年の作家はアンソロジー1作含めて13作で貫井徳郎です。


参考資料伊坂幸太郎作品年表
参考資料甲斐高風のBOOK LIST(山田風太郎)
参考資料漫画家作品年表(せがわまさき)
参考資料甲斐高風のBOOK LIST(貫井徳郎)


TVドラマ『僕の生きる道』(フジテレビ)
ノミネート全63作
 


TVアニメ『ヒカルの碁』(テレビ東京)
ノミネート全42作
 


邦画『連弾』(2001年)
役者天海祐希(『オケピ!』 2003年:舞台)
ノミネート全9作
 この映画を観終わるまで、いわゆる映画音楽が一切使われていないことに気がつきませんでした。要所要所でピアノが演奏されていたので、不自然に思わなかったのです。
 この映画を観終わるまで、先にこの映画を観た母が「いくら自分が監督だからって竹中直人の妻に天海祐希なんて無理のあるキャスティングだ」と言っていたことを忘れていました。 この二人が夫婦であることを、不自然に思わなかったのです。
 この映画を観終わるまで、よく考えたら資産家の専業主夫がついふるってしまった暴力とキャリアウーマンの妻の不倫により崩壊した家族が描かれた悲劇であることを忘れていました。 「悲劇は傍から見れば喜劇」だからではなく、崩れたって壊れたって家族であることに揺らぎはないこの家族の物語を、不自然に思わなかったのです。
 と、いうわけで実に自然に楽しめてしまった映画でした。
 また、『オケピ!』のハーピストを演じた天海祐希(『連弾』にも出演していましたが)を2003年の役者に選出いたしました。
 実は『オケピ!』は初演(2001年)も生で観ており、 割と松たか子ファンである私は彼女の演じたハーピストのイメージが強く残っていたので 最初写真で見た時にはどうもイメージに合わないと首を傾げておりました。
 しかし、実際に観てみたら1985年宝塚音楽学校入学(首席)、1993年男役トップに就任(史上最短)ときた宝塚歌劇団のエリートの「迫力」に圧倒されてしまいました。 宝塚歌劇団にのめりこむ人々の気持ちもよくわかりました。 ちなみに『オケピ!』は彼女が1995年宝塚歌劇団退団後初めて出演したミュージカル作品です。
 尚、余談になりますが、私が観に行った4月16日夜の回では白い杖の方も観劇していました。 不勉強で申し訳ないのですがミュージカルってよく白い杖の方も観劇するものなのでしょうか。 また、その回は有名人のお客様も多かったらしいです。開始ギリギリにウロウロしていた長身の女性と恰幅のいい女性が実は江角マキコと森久美子だったらしいですし、 他にも大倉孝二、大竹しのぶ、佐々木蔵之介、渡辺いっけい達がいたようです。


洋画『猟奇的な彼女(My Sassy Girl)』(2001年:韓国)
ノミネート全13作
 いやぁ、こんなに楽しい映画を観たのは久しぶりです。 内容は要するに「女々しい男性と雄々しい(を通り越して猟奇的な)女性のラブコメディ」なのですが、 うわぁ猟奇的ってこういうことかよ下品すぎるよとか、 うわぁ劇中劇にお金かけてるよ意味ないよとか、 あぁそういえば主人公キョヌ(チャ・テヒョン)って学生時代の知人に外見も性格もそっくりだよ、でもヒロイン(チョン・ジヒョン)にそっくりな知人なんていないよとか他愛もないことを考えながら 前半戦、後半戦、延長戦と進んでいくうちに単純なラブコメディではなくなってきます。 油断できません (まぁ、冒頭の「写真撮影中に携帯電話がかかってくる」「2年前に埋めたタイムカプセルの元に行く」シーン自体をすっかり忘れていたのは私くらいでしょうが)。
 ちなみに、原作はキム・ホシクがネットで書き込みんだ彼女との実体験(?)が元になっているのだそうです。 油断できません。
 映画を見ていて、自分が恋愛関係で薄幸なのも忘れてついつい主人公達のハッピーエンドを望んでしまった、そんな映画でした。


アニメーション映画『美女と野獣(Beauty and the Beast)』(1991年:アメリカ)
ノミネート全7作
 ご存知、名作童話を原作にしたディズニー映画。 第64回アカデミー賞においてアニメーション映画として初めて作品賞にノミネートされました。 あちこちで色々な方が指摘しているように野獣が王子よりも魅力的だったりしますが、それはさておき、 ミュージカルはディズニー映画と相性がいい、 ディズニー映画は王道と相性がいい、ということを再確認できた作品でした。


家庭用ゲーム『STAR OCEAN Till the End of Time』(エニックス/プレイステーション2)
ノミネート全35作
 いや、わかっていますよ、発売延期までしてもストーリーも操作性も不安定すぎる作品だったというのは。 しかし、ストーリーが面白くて戦闘がダメダメなゲームとその逆なら前者の方が圧倒的に挫折してしまうわけで、 アクションゲームが大の苦手なこの私がアクション要素が強いリアルタイムバトルを楽しみながら一応隠しダンジョンまでクリアすることが出来た、という点を評価いたしました。
 もっとも私の場合、「黒鷹旋」等の便利な戦闘能力と浅川悠ボイスや二刀流の隠密といったお気に入り要素の両方を兼ね備えたキャラクター、ネル・ゼルファーがいなかったら 途中で挫折していた可能性が高かったので、3DアクションRPGとして評価しているというより、キャラゲーとして評価しているのかもしれませんが。
 尚、余談になりますが、本作のストーリーのようなメタメタな展開(ダブルミーニング)は小説だと比較的許されるのに、ゲームや映画だとあんまり許されないように思えるのですが、何故なのでしょうか。 視覚的表現に頼ると不自然に見えるのでしょうか。 まぁ、確かに世界観を共有したシリーズ作品でこの展開をユーザーが喜ぶことは滅多にないことだとは思いますが(同一主人公等による完全シリーズ作品よりも少ないような気がします)。
 ちなみに、この作品を除けば、実は2003年に一番購買意欲がそそられたのは『DEAD OR ALIVE XTREME VOLLEYBALL』(テクモ/Xbox)だったりします。 ファンディスクが本道から外れるのはお約束なので許容範囲ですし、元々ビーチバレーは好きですし、 最近ゲームをする気力や体力がなくなりつつあるので、アイテムコンプリートの呪縛から逃れてまったりとプレイする分には楽しそうだなぁ、という感想を店頭で体験した限りでは抱きました。 ただ、私の現状ではまったりプレイのためにあんな価格と大きさとソフトラインアップのハードは買うことはできませんでしたが。


参考資料甲斐高風のGAME REPORT『STAR OCEAN Till the End of Time』


業務用ゲーム『青春クイズ カラフルハイスクール』(ナムコ)
ノミネート全8作
 高校3年生の1年間を舞台にした恋愛系クイズゲーム(攻略できる女の子は4名)。 『QUIZ なないろ DREAMS 虹色町の奇跡』(カプコン)路線といえば通じるでしょうか。
 最大の特徴は、普通この手のクイズゲームでは「狙った女の子Aに会いに行く→Aにクイズを出される→正解するとAの好感度がアップ!」なのですが、 このゲームの場合は「狙った女の子Aに会いに行く→Aにクイズを出される→正解すると正解したクイズのジャンルの属性のBの好感度がアップ!」なのです。 オタクなジャンルのクイズにいくら答えてもオタク属性のBの好感度しか上がらず、狙ったはずの常識属性のAとはいつまで経っても仲良くなれません。 クイズ以外にも3択イベントで好感度は変わるのですが、Aのところに行っているのにBの好感度が上がり続けると、Aを探してもAが見つからずBが見つかるようになります。 趣味の合わない女性とは上手くいかない、という妙にリアルなクイズゲームなのです。
 2003年の業務用ゲームで他に特筆することは、『SVC CHAOS SNK VS. CAPCOM』(プレイモア)でかつて1996年のキャラクターとして選出した藤堂香澄を使って対戦で6連勝したことくらいです。


キャラクター大森(「にんじんなんて大嫌い」 桜場コハル/講談社「週刊ヤングマガジン」読切)
 大森の魅力を言葉で紹介するのは非常に難しいのですが、作品が簡単に読めない現況では拙い紹介でもやらないよりはましだと思うので紹介します。
 まず、甲斐高風の趣味はバレバレで、要するに「黒髪の長髪で和装で料理が得意な恋する乙女」だったりするわけですが、 大森はこの条件を基本的には満たしています(給食係係長だからって、割烹着=「和装」はまだしも、「料理が得意」という条件がクリアされた気分になってしまうのは本当はおかしいのですが)。 性格は、小学5年生にして世話女房。もっとも、打算も恋愛感情もない純粋な世話女房というのは実は小学5年生くらいまでのような気もします。 ちなみに、今まで選出してきたキャラクターの中では年齢不詳の神麻嗣子を除けば最年少のはずなのですが、一番大人っぽく見えます。
 さて、「にんじんなんて大嫌い」はわずか8Pの作品ですから、ストーリーを言葉にしてしまうと 「給食の時間、にんじん嫌いの秋山に大森は口うつし作戦によってにんじんを食べさせようとする」というだけの作品です。 しかし、この作品を実際に読んでみると、ころころと変わる表情とかが実にいいのですよ。 大森にとってはあくまでも口うつしであってキスではないのですが、だけどなんで大森がにんじん嫌いの秋山にそこまでしてにんじんを食べさせたいのかを考えると……もう、ご馳走様でしたって感じです。 1人でも多くの人の目に触れて欲しい作品なのに、それがかなわない現状が本当にもったいないです。
 尚、一応2003年の男性キャラクターも一人挙げておくと、イザーク・ジュール(『機動戦士ガンダムSEED』 TBS)になります。 戦闘でも恋愛でもさっぱり陽の目を見ないサブキャラクターを応援してしまうのはいつものことなのですが、そんな彼が撃墜必至と思われた終盤で、他の多数のキャラクターを尻目にまさかの大健闘を見せたことにはなんとなく勇気付けられました。


参考資料桜場コハル非公式ファンクラブ(代理)


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